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地球が生まれていない遠い昔のことです。冷たくて希薄なガスが浮かんでいました。中身は水素とヘリウムだけです。ガスの濃い部分が自己重力で収縮し、回転とともに平たくなっていました。中心部分ではガスが収縮するにつれて内部の原子同士が近づき、動きが活発になり、温度が上昇していきました。
やがて十分に高温となり、天然の核融合炉になったのです。漆黒の闇の中で、原子は物理法則に従って出会い、くっついたのです。やがて光が暗闇を照らしました。恒星の誕生です。水素原子が核融合して、ヘリウム原子が形成されていきました。
それから数十億年が過ぎ、星はすっかり年を取りました。もっていた水素燃料をみんなヘリウムに変えてしまったのです。近づく死を前に、星は幼少期のように再び内部で核融合反応を行います。
今度は、たくさんあるヘリウム原子3個が一つになって我らが炭素原子へと変身し、宇宙空間へ旅立ちました。天の川銀河の別の場所でも、恒星の誕生と死が続いていました。物語のもう1人の主人公も、死にゆく星の中心部で形成されました。
星の死である超新星爆発の中で、合計238個の陽子と中性子が融合してウラン原子になりました。それぞれ別々の場所でできた炭素原子とウラン原子、2個の原子は天の川銀河をどこまでもさまよいました。炭素原子は長い旅をして、小さな惑星の一部となりました。
そして数億年後、複雑な構造をした分子の一員となります。この分子は自己複製という珍しい特徴をもっていました。これこそが生命誕生の立役者であるデオキシリボ核酸、DNAです。生命の始まりには、炭素原子が微力ながら貢献したことになるといいます。
深い海の底に出現した単細胞の生命体にも、古代魚の虹色のうろこにも、海から陸に上がった両生類のかぎ爪にも炭素は必ず入っていました。どんな形を取るにせよ、炭素原子には自己意識も自由意志もなかったのです。
自然の法則に従って作動する宇宙装置の、ごく小さな歯車の一つでしかなかったのです。 では超新星爆発でできたウラン原子はどうだろうか。生まれたばかりの地球が燃えさかっていた時、そこにウラン原子が引き寄せられました。
超新星爆発の衝撃波に運ばれたか、太陽の重力に引っ張られたか。ともかくウラン原子は地球に飛び込んで、奥へ奥へと潜っていきました。地球は表面が冷えた後も、内部は融けた岩石や金属のマグマでどろどろしていました。
マグマはゆっくりと回転し、ウラン原子もその流れに乗るうちに地表へと押し上げられていきます。地球の深部は温度も圧力もすさまじいのですが、ウラン原子はびくともしなかったのです。原子はとても小さくて固く、古くて丈夫なのです。
最初の頃は地表の岩石にウラン原子がたくさん存在していたが、長い時間とともに岩石は深く沈み込み、高いマツ林にすっかり覆われました。万物は原子でできています。もちろん我々も。でも1世紀終盤になるまで、原子内部が熱狂のるつぼだとは誰も知らなかったのです。天の川銀河の両端に別れた2個の原子が、ついに出会うときが来たのです。
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