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純粋に軍事的な観点から見ると、イラクは中東で最も戦略的な価値の高い国でした。クウェート・サウジアラビア・ヨルダン・シリア・トルコ・イランの6カ国と国境を接しています。既にアフガニスタンには米兵力が駐留していました。
イラクを支配下に置けば、米国の影響力は、東はヒマラヤから西は地中海まで、北は黒海とコーサカスから南は紅海・アラビア海まで及ぶようになるので、米国にとってイラクは中東の大事なキーだったのです。
米国がイラクを占領していることは、サウジアラビアにとっては耐えがたい状況を生み出す事でしょう。既にサウジアラビア国内及び周辺諸国にはアメリカの空軍と海軍が展開し、それに加えて隣国に陸軍の大部隊が駐屯しているのですが、サウジアラビア政府は、米国がイランを軍事占拠する可能性を真剣に考えた事はないようです。
強烈な挑発でもしない限り、米国が軍事行動をとることはありえず、もし軍事行動に踏み切る場合には、サウジアラビア国内の基地使用や領空の通過が不可欠だと思い込んでいたのです。サウジアラビアは、アメリカの戦略を読み誤っていました。
アメリカがサウジアラビア政府を同盟国ではなく、解決しなくてはならない戦略上の問題だと考えている事をサウジアラビア政府は理解していません。サウジアラビア政府は、アメリカとの友好関係を危うくするようなことは決してないと信じています。
だが、アメリカは繰り返し警告シグナルを発してきたにもかかわらず、9・11自爆テロ事件以後の煮え切らない行動で、信頼をすっかり失ってしまったことに気づいていなかったのです。対アルカイダ戦でサウジアラビアがしきりに米国の足を引っ張っていたことを思えば、米国にとって最も直線的な選択肢は、サウジアラビアを攻撃することです。
だが、領土が広大なサウジアラビアは攻めるのが難しく、しかも米国としてはサウド王家を潰すつもりはなかったのです。もし米国がサウジアラビアに対して軍隊を動かせば、サウジアラビア国内のアルカイダに対する支持は爆発的に強まっていたでしょう。
アメリカとしては、サウジアラビア政府が行動を改めてアルカイダ打倒に協力してくれれば、それでよいのです。こうした計算に、アメリカへの石油供給が危うくなる可能性も重要ですが、アメリカは迂回戦略をとって、イラクからサウジアラビアに圧力をかけることにしたのです。
アメリカ側からすると、イラク占拠はサウジアラビアに対する重要なテコを2つもたらすことになります。第1の重要なテコは、アメリカ陸軍数個師団がイラクに駐留しているというのは事実です。もちろん、サウジアラビアにとって隣国イラクは常に脅威だったのだが、これまではイラクの脅威からは、常にアメリカ軍が守ってくれていました。
アメリカ軍が国境線の向こう側に移って自国の脅威になる可能性は、サウジアラビアの戦略思考を根底から覆すものだったのです。第2のテコは石油です。イラク戦争に反対した者の多くが論じるのとは、別の理由によってですが、実はアメリカは、湾岸地域の石油の流れを直接コントロールしようとしたことはありません。
石油の安定した供給を求めていただけです。湾岸地域で直接、軍事行動を起こすことのコストは、油田地帯を掌握したことで得られるいかなる利得よりも高くつくであろうことを、アメリカは理解していたと言います。
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