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文藝春秋6月号から。藤原正彦先生のエッセイから抜粋。 ・・・三千院の苔むす庭を通り、往生極楽院に入った。〜手前に目を落とすと毛筆で何かが書かれている。「これまでに起きた楽しいこと、うれしいこと、嫌なこと、悲しいこと、辛いこと、それらはすべてあなたを造ったものであり、あなたの一部であり、あなたの宝物なのです」。心が暖かくなった。これまでは嫌なこと、辛いことは忘れよう、出来たら消去しようと心がけてきたが、そんな必要はないのだ。自分の歩んだデコボコ道がどこか愛しくなるような気持ちになった。〜近所の真宗の寺を通りかかった時、玄関脇の掲示板の文字に目が止まった。「これからが、これまでを決める」とあった。〜すごい言葉であることに気付いたのである。「これまでがこれからを決める」は、原因があって結果があるという欧米型世界観である。自然科学はすべてこれで、私が慣れ親しんできたものだ。この掲示板は何と正反対のことを言っている。東洋の哲学だ。これからの生き方次第で、これまでの人生の意味が違ってくるということである。・・・。 「これからが、これまでを決める」
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