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2005年にハンセン病の病原体である「らい菌」の起源をたどる調査が行われました。その結果、ハンセン病は東アフリカか中近東で最初に発生し、入植者や探検家、交易商人などによって西アフリカや南北アメリカ大陸に持ち込まれたと結論付けられました。
18世紀にはびこっていた奴隷貿易によって西アフリカからカリブ海地域やブラジルに病気が持ち込まれ、おそらくはそこから南米の他の地域に広がったのだろうと報告書では述べられています。18世紀から19世紀にかけては米国中西部でハンセン病が多発しており、スカンジナビア半島からの入植者たちがやってきた時期と一致します。
当時はノルウェーでハンセン病が大流行していました。米国ルイジアナ州の野生アルマジロは生まれながらにしてらい菌を保菌しています。調査の結果、アルマジロが持っている菌はヨーロッパ北アフリカ株であることがわかりました。つまり、ここのアルマジロたちは人間が大陸の外から持ち込んだらい菌に感染していたと考えられています。
逆にアルマジロが人間にハンセン病を感染させた可能性もあるのですが、その可能性はきわめて低いようです。同じ2005年の調査で、研究者たちは人間の体から見つかったらい菌が古生物に起源を持つ可能性を否定できないとしたのですが、虫に刺されることによって感染した可能性もあるという含みを持たせました。
2009年にはさらなる証拠が見つかりました。エルサレムの旧市街に近い場所に埋葬されていた紀元1〜50年頃の遺体を調べた結果、この人物がハンセン病にかかっていたことがわかったのです。同年、別のチームからインドで発見された紀元前2000年頃の中年男性の骨を鑑定したところ、ハンセン病にかかっていたことが判明したとする報告が出されました。
らい菌がアフリカで進化したのなら、文明が発達したインダス川流域 (アフガニスタン北東部、パキスタン、インド北西部)、メソポタミア (チグリス川とユーフラテス川流域の西アジアの一部)、 エジプトの間で頻繁な交流があった紀元前2000〜3000年頃にインドに伝わったのではないかというのが彼らの意見でした。
19世紀には、ハワイ諸島の島の一つ、遠く人里離れた場所に隔離集落ができました。はっきりした記録は残っていないのですが、1860年代から1960年代にかけて少なくとも8000人の患者が強制的にここに連れてこられたようです。そのほとんごはハワイの先住民でした。
2015年の時点で、当時そこで暮らした73歳から92歳の患者が16人生存しており、6人が現在もその島で生活しています。効果的な治療法が確立されてから20年以上たった1969年に隔離法は廃止されましたが、長く暮らしたこの隔絶の地を離れるにしのびず、 一部の住民はここに残ることを選びました。
かつてハンセン病は強い伝染性を持つ病気だと考えられていましたが、実際には長年にわたって治療されない状態で放置されたハンセン病患者と長期間濃厚な接触を続けない限り、感染することは殆どないのでした。しかし、ハンセン病の感染経路は未解明のままです。
最初のうちは患者への直接接触により感染すると思われていましたが、現在では患者の咳やくしゃみなどに含まれる飛沫を大量に吸い込むことで感染するのではないかという説が主流となっている2000年に世界保健機関(WHO) は公衆衛生上の問題としてのハンセン病は制圧されたと宣言しました。
世界の人口の95%以上は免疫を持つようになっているため、現在、成人がハンセン病にかかるリスクはきわめて低いです。ハンセン病を予防するワクチンはないのですが、今では簡単に治療できる病気になったのです。早期に治療を開始すれば後遺症が残る心配もないです。そのため、リスクの高い地域では病気の早期発見が重要になります。
しかし、世界の一部地域でハンセン病はいまだに風土病となっているのです。2017年には全世界で約25万人がハンセン病と診断され、200万人が後遺症に苦しんでいます。 2011〜15年の間に新たに発症した患者の大多数 (94%) をわずか14カ国が占めています。
内訳はインドやバングラデシュなどアジアが7カ国、コンゴ民主共和国やエチオピア、マダガスカルなどアフリカが6カ国、それに南米のブラジルです。どの国でも1年間で新たに報告される患者数は1000人を超えています。 一方、米国のハンセン病年間新規患者数は150〜250人前後にとどまっています。
WHOはハンセン病のない世界を目指した戦略を展開し、2020年までに子供の新規感染ゼロを目標に掲げています。 2016年に新たにハンセン病と診断された患者数は21万6108人、そのうち1万8472人(9%弱) を子供が占め、中には後遺症が懸念されるケースもあります。
WHOはこの病気の排除に取り組むと同時に、ハンセン病に対する偏見をなくすことにも努めています。厳しい社会の壁に直面する大人たち、いじめられ、教育を受けることすらままならない子供たちがいます。
例えば、インドではハンセン病が正当な離婚理由として認められており、同様にハンセン病患者に差別的な法律が16項目にわたって定められているのです。20世紀に入ってからも、かなり後になるまで途上国の多くの地域ではハンセン病患者を隔離することが推奨され、地域によっては強制的な隔離が横行していました。
このような偏見のせいで患者が受診や治療をためらい、ハンセン病の根絶が妨げられています。特に移民、ホームレス、 医療サービスの利用が難しい最貧困層などの弱者はその傾向が顕著となっているのです。
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