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「線路や施設の検査」といっても、軌道や架線、信号保安装置、列車無線装置などのように、新幹線の全線にわたって敷かれていたり、張りめぐらされているものをくまなく検査するのは容易ではありません。
たとえば、フル規格の新幹線に敷かれた軌道の延長は2017年3月31日時点で5750.1qにも達しています。 仮に100人の人手で1日に1qずつ検査したとしても57日と、およそ2カ月を要してしまいます。
架線や信号保安装置、列車無線装置などが敷設されている延べ長さも似たようなもので、それぞれ専門の担当者が行わなければならないのです。このため、検査には膨大な数の人手と日数とを費やすうえ、終わった頃には最初に検査したところの具合が悪くなるのでは大変効率が悪いのです。だれもが考える方策は車両を用いて検査を行うことです。
JRの在来線や民鉄は検査と測定とを合わせた鉄道業界の呼び方で検測を実施するために専用の車両を保有し、忙しく走らせています。JR東日本が保有するキヤE193系と呼ばれる検測用のディーゼルカーはJR東日本だけでなく、ほかの鉄道会社にも貸し出されて線路や施設の検査を行うほどです。新幹線にも当然、検測用の車両が存在します。
中でもJR東海とJR西日本とが保有する923形新幹線電気軌道総合試験車は「ドクターイエロー」、そしてJR東日本が保有するE926形新幹線電気・軌道総合試験車はEast-i (イースト・アイ)と呼ばれ、普段はあまり鉄道に興味のない人達の関心も高いです。
ドクターイエローは最高速度時速270q、East−iは同275qでともに走行しながら軌道、架線、信号保安装置列車無線装置の検査を実施できる車両です。充実した検測機能はもちろん、営業列車とほぼ同じ速度で検査できるという特徴をもつというのも、新幹線では夜間に線路や施設のメンテナンスの多くを実施するため、検測用といえども車両を走らせることはできないそうです。
そのため、日中に検測するには営業列車の運転の妨げにならないよう、可能な限り速く、できれば営業列車と同じスピードで走る必要があります。こうして、超高速で走りながら検査する車両が誕生したのです。
外から見ると、ドクターイエローはJR西日本の700系、East−iはJR東日本のE3系という営業用の新幹線によく似ています。それもそのはずで、製造に当たってベースとしたからです。 だが、車内や搭載している機器はどちらももとの車両とは大きく異なります。
外観上の違いを挙げていくと、まずは側面に設置された窓の数がほとんどの車両で営業用の車両よりも少ない点に気づきます。屋根上を見ると、走行に用いるパンタグラフのほかに検査用のパンタグラフを搭載していて、このパンタグラフを監視するために、屋根上に窓の付いた突起となった観測ドームが設けられています。
7両編成を組むドクターイエロー、6両編成を組むEast−iの車内には、各部門の担当者が乗り込みます。ほぼすべての検査は機器が自動的に行い、担当者は測定されたデータを確認しながら、「異常な数値が出ていないか」とか「何らかのエラーが出ていないか」といった点に目を光らせています。
測定されたデータは、新幹線の線路に沿って敷かれた通信設備を通じて地上の総合指令所や各部署に送られていきます。対応までの時間は短く、日中の検査で修繕が必要と認められた個所のほとんどはその日の夜に整備されます。
業務時以前ドクターイエローは東海道・山陽の両新幹線 East−iは東北・上越・北陸・北海道のフル規格の各新幹線のほか、ミニ新幹線の山形・秋田の両新幹線、それに上越線の越後湯沢〜ガーラ湯沢間でそれぞれ検査を行います。East−iの守備範囲は広く、JR北海道やJR西日本の新幹線も受けもっています。
多くの人々が関心を抱いているのは、ドクターイエロー、East−I とも「いつ運転されているか」でしょう。どちらもフル規格の新幹線の区間では少なくとも10日に1回程度は運転されています。
ドクターイエローの場合、東海道・山陽新幹線の主本線(駅構内で「のぞみ」などの速達列車が通過していく線路の検測は10日程度に1回、副本線、駅構内で「こだま」などの各駅停車の列車が停車する線路の検査は年に2回実施されるといいます。
主本線の検測を行う列車は「のぞみ」とほぼ同じ所要時間で、副本線の検測を行う列車は 「こだま」とほぼ同じ所要時間でそれぞれ走っています。目立つよう車体の色が黄色く塗られています、線路や施設を検査する「医師」という事で名付けられたドクターイエローは黄色が縁起のよい色とされているため、見ると幸せになるといわれているそうです。
幸せになるという由来は遭遇する頻度が低いからでもあります。とはいえ、ドクターイエローの行程はまずは東京駅から博多駅まで1日で走り、翌日に博多駅から東京駅まで戻るというものです。このパターンが10日に1回繰り返されるので、1カ月に6日は走っていることとなります。東海道・山陽の両新幹線の線路の沿線にある会社や学校に通っている人ならば、案外結構な頻度で見ているでしょう。
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