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東京総合指令室を見学してから、実際に東京圏の在来線で列車が走り、多くの人を運んでいる様子を見ると、日常的に見ていた駅の風景がいつもとちがって見えてきます。平日の朝のラッシュにおける新宿駅と東京駅の様子を見ながら、指令員の仕事をみます。新宿駅は、ご存じのとおり、東京圏最大規模のターミナル駅です。
JRだけでなく、民鉄2社 (小田急・京王だけでなく、西武を含めて民鉄3社とする場合もある)や地下鉄3路線 丸ノ内線・新宿線・大江戸線)が乗り入れており、西武新宿駅をふくむ1日の平均乗降客数は364万人と世界最多で、200以上の出入口があることなどから、世界でもっともにぎやかな駅であるとギネス世界記録に認定されています。
JR新宿駅は、1日平均乗車人員は約15万人でJR東日本の駅でもっとも乗車人員が多いです。山手線や中央快速線、中央緩行線、埼京線、湘南新宿ラインの列車が早朝から深夜まで頻繁に行き交い、成田空港や甲府・松本、房総、伊豆、日光・鬼怒川方面に向かう特急列車も乗り入れてきます。
平日朝のラッシュ時に、JR新宿駅の7番8番乗り場に行くと、中央快速線の上り列車が平均2分間隔で到着します。中央快速線は、JRでもっとも運転間隔が短い線区です。新宿駅では、オレンジ色の帯を締めた10両編成の通勤電車が、7番8番に交互に入ってきます。
列車がホームに差し掛かってから停車までに約30秒、利用者が乗降する停車時間は約60秒、発車から列車がホームを離れるまでに約30秒、トータルで約2分。このタイミングを7番8番でずらしているから、平均2分間隔で列車が連続して発着できます。
通勤電車のドアが開くたびにホームが人であふれ、階段に人が集中して流れていくのをひたすら繰り返す。このホームには、5人の駅員が等間隔で立ち、7番8番を行ったり来たりしながら安全を確認しています。かつてはドアに人を押し込む「押し屋」と呼ばれる人もいましたが、今は混雑率が下がったためか、あまりいないようです。
発車時刻が迫り、ドアが閉まると、電車の側面で点灯していた赤いランプが一斉に消えますが、たまに駆け込んで強引に乗ろうとする人がいて、ドアが閉まらなくなり、その車両だけ赤いランプが点灯したままになります。すると駅員が駆け寄って対処します。
これだけで10秒ぐらいはすぐに経つ。中央快速線のダイヤは10秒単位で刻まれているので、わずか10秒の遅延でも輸送に影響することがあるのです。もしこのホームで異常が起きて、列車が5分でも停まれば、列車2本分の輸送力が失われてしまうのです。
現在、中央快速線で使われている通勤電車(E233系)は、10両編成の定員(座席数や床面積から計算される定員などの合計)が1480名なので、満員であれば2960名分の輸送力が消えます。実際は定員の2倍乗っていることもあるので、6000名に近い輸送力のロスとなるのです。
もしこの状況で人身事故が起きて、列車が大きく遅れたら、輸送がどれほど混乱するかは、このことからも想像できるし、駅員がピリピリした表情をしている理由もわかります。輸送が混乱すれば指令室も騒然となることでしょう。
平均2分間隔で新宿駅を発車した上り列車は、中央快速線の起点である東京駅で折り返し、下り列車となって新宿駅方面に平均2分間隔で発車します。東京駅の1番2番のりばが中央快速線のホームですが、そこを交互に列車が出入りします。
ホームには下り列車に乗務する運転士や車掌が待機しており、入ってきた上り列車が停車し、ドアが開くと、運転士や車掌が交代します。どの列車に誰が乗るかという運用はあらかじめ決まっているので、1番2番のりばで列車の先頭と最後尾が来る位置には、ほぼ2分ごとに別々の運転士や車掌が現れ、電車に乗り込むのを繰り返します。
まさに一定のリズムを刻む機械のようですが、そこに立つのも、その運用を考えるのも「人」なのです。列車が大きく遅れれば、そのリズムが崩れますが、輸送指令がダイヤのリズムをもどし、運用指令が乗務員と車両の運用を調整し、営業運輸指令がその遅れを伝える。
自然災害などで線路などの鉄道設備が壊れれば、設備指令が復旧工事を手配します。そうした対応に社員が奔走し、東京圏の在来線の輸送を陰で支えているのが、東京総合指令室なのです。
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