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小説内では、太平洋を挟んだアメリカと中国の争いに乗じて、ロシアが念願のバルト海沿岸部とポーランド周辺域を侵略する様子が描かれています。ロシアの動きに備えがなく、団結して抵抗することもできないNATOを、西欧の「退化した組織」と表現しています。フランスのマクロン大統領が「NATOは脳死状態だ」と言ったのを思い出しました。
NATOなどの同盟関係、あるいは二国間のパートナーシップでも友好関係でも構いません。アメリカが今、国際社会で享受している同盟関係を「庭」に例えてみます。庭で植物を育てるには、丁寧に世話をして、栄養をやり、時には雑草を抜かなければなりません。
それと同じで、トップレベルの外交訪問や、共同軍事訓練、さらに北朝鮮、イラン、ロシア、中国などをめぐる主要な国際問題に関しての協力体制の構築は、きわめて意識的におこなっていく必要があります。
各国が同じ危機感と、国際社会における民主主義を守ろうとする姿勢を共有すれば、各国間の軍事費支出の差に対する不満などの問題も克服できるはずです。チャーチル(元英首相)は、同盟国とともに戦争するより悪い唯一のことは、同盟国なしに戦争することだと言っています。
バイデン政権はこれをよくわかっていて、同盟という庭の手入れにかなり努めています。この努力をトランプ政権も一貫して続けられたとすれば、NATOも安泰だと思いますし、米日豪印の4ヵ国による協力体制「クアッド」も大丈夫でしょう。クアッドは、アメリカにとって新たな戦略的基盤となりつつあります。
小説では、ロシアが大西洋の海底を走る光ファイバーケーブルを切断し、首都ワシントンを含むアメリカ東海岸一帯を混乱に陥れます。世界の海に敷設されているこうした海底ケーブルは、どのくらい脆弱で、どうすれば防衛できるのでしょうか。そうした海底ケーブルは、数としてはそれほど多くありません。
インターネット通信に不可欠なのはせいぜい数百本といったところでしょう。しかし、実際それらは脆弱なのです。原子力潜水艦を備える軍事大国からの攻撃に耐えうるほどに海底ケーブルを強化するのはかなり難しいです。ゆえに、海底ケーブル防衛の最善策は抑止力でしょう。
つまり、それを攻撃することは、我が国の経済に対する重大な攻撃とみなし、直ちに相応の反撃に出るという姿勢を、敵国に示していくことが大事なのです。今のところ、バイデン政権はロシアや中国との対決姿勢を崩していませんが、結果、この両国がさらに近づいて西側諸国への敵対姿勢を強めています。
これは、中露の分断を図ったキッシンジャー・ニクソン戦略とは真逆になります。我々がどう動こうと、ロシアと中国は接近していきます。世界的に見ても専制主義国家の双璧ですから、外交面でも経済面でもおのずと関係を強化していくはずです。いわば、互いに補い合う関係です。
ロシアには豊富な天然資源を擁する広大な土地の力があり、一方の中国には莫大な人口の力がある。もちろん広く国境を接しているという事実を含めて、両国には自然と調和が取れるような条件がそろっていて、それが二国間の協調に繋がっているわけです。
多くの不和にもかかわらず、習近平国家主席とプーチン大統領は、先ごろバイデン大統領が主催した気候変動サミットに出席しました。今や地政学的な対立を越えて、地球規模の気候変動問題に対処していかねばならない現実があります。
逆説的ではありますが、地球温暖化をめぐる共通の危機は、全面的な冷戦に発展しつつある緊張をやがて緩和してくれることに期待したいものです。対中国・ロシアに関して、立ち向かうべきときには立ち向かい、協調できる分野では協調する。
たとえば、国内の選挙に介入されたり、人権侵害がおこなわれたり、南シナ海の領有権を主張されたり、台湾が脅かされたりしたときは、毅然と立ち向かわねばなりません。一方の協調では、気候変動問題もそうですが、次なるパンデミックへの備え、人道支援、軍縮などが考えられます。
あとは少なくとも、サイバー攻撃に対する抑止体制構築へ向けて協議を始めることもできるでしょう。ちょっとした誤算がアメリカと中国を戦争に導いてしまう可能性があります。緊張がエスカレートしていく段階で制御しそこなったとか、相手側の狙いを読み違えたとか、そうした計算ミスが原因で突入した戦争は、どちらの得にもならいのです。
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