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新幹線の車両の窓から景色を見ても、慣れないと今どこを走っているかはわかりづらいでしょう。次の停車駅は車掌や自動音声による放送で案内されるものの、近くのお客さんが大きな声でお話をしていたりしたら聞き逃してお手上げとなります。そうかといって、案内放送を頻繁に流していたら、車内が騒がしくなってしまいます。
いま挙げた欠点を解消するため、新幹線では聴覚の代わりに視覚に訴える情報提供の仕組みが整えられました。客室と出入台とを仕切っている壁の上に設けられている旅客案内表示装置です。
旅客案内表示装置は、いまや一般的な存在となったLED (発光ダイオード、 Light Emitting Diode) のディスプレィをもち、横書きで記された日本語や各国語の文字を座席から見て左に送って表示しています。列車が駅に停車しているときは列車名、号数、行先、停車駅を表示しています。
一方、列車が走っているときは新聞社が提供するニュースや企業の広告、鉄道会社からの案内が主で、駅を通過するときには、どの駅かが表示されます。停車する駅に近づくと駅名が示され、車両の種類によっては、進行方向から見てどちら側の扉が開くのかも案内されます。旅客案内表示装置は中央装置、端末装置 LED表示器から成っています。
中央装置は1編成に1基置かれ、いつ、どこで何を表示するのかを判断し、専用の通信回線を経由して各車両に1基搭載された端末装置へと情報を送ります。端末装置は中央装置から受け取った情報を中継し、各車両に2基設置されたLED表示器へと配信する役割を果たします。表示される内容は2種類に分けられます。
中央装置のディスクやメモリーカードにあらかじめ記憶されたものと、ATCや列車無線用の通信回線を通じて中央装置が外部から受け取ったものです。あらかじめ記憶された表示内容とは、列車に関する情報が挙げられます。
近年の車両では始発となる駅を出発する前に運転士が運転台のモニタ装置に列車番号を入力すると、中央装置はその情報をもとに列車名や号数、停車駅を自動的に示します。これから停車または通過する駅の情報も記憶していて、線路に設置された地上子からの信号や、 車輪の回転数をもとに車両が割り出した位置情報を使って表示しています。
忘れてはならないのは広告です。こちらも中央装置に記憶されています。東海道新幹線の場合、広告の文面は1回当たり64文字で、2度繰り返して表示される仕組みです。表示される回数は東京〜新大阪間で2回だといいます。
広告料金は330万円と一見高額に思われますが、 何しろ1日に300本以上の列車で2回の広告であるから、PR効果はとても高いでしょう。中央装置が外部から受け取る情報のなかで列車についてのものは、次の停車駅で「列車の進行方向から見てどちら側の扉が開くか」です。この情報はATCから受け取る仕組みです。
ATCは列車が駅のどの線路に進入するかという情報をもとに列車の速度を制御していて、その情報が列車案内表示装置の示す内容にも反映されています。列車無線の通信回線を通じて中央装置が外部から受け取る情報として挙げられるのは、新聞社や通信社が提供するニュースです。
かつて、ニュースの表示はどの列車でも行われていましたが、2020年3月から東海道新幹線の列車ではニュースが表示されなくなりました。これは、スマートフォンの普及で、旅客が各自ニュースを知ることができるようになったからだといいます。
それから、列車のダイヤが乱れたときなどに総合指令所の指令員から送られる緊急情報も列車無線の回線を経由して中央装置に送られます。緊急情報はほかの内容に優先して表示されることはいうまでもないでしょう。
端末装置の役割は先に挙げたほか、LED表示器の作動状況を管理する役割も担います。電区分所を通過する際にも旅客案内表示装置には電力の供給は止まらないですが、それでもほんの一瞬だけ停電するケースもあります。
そのような時、端末装置は中央装置から受け取った情報をいったん蓄積しておき、LED表示器での表示が中断された時にはもう一度表示するといった指示をLED表示器に出します。LED表示器は各種の文字情報を表示する役割を受けもっています。
N700系を例に挙げると、表示スペースは幅が1mほど、高さが13pほどの横長で、 一度に8文字を示すことができます。「マルチカラーLED」や「フルカラーLED」といわれていて、たとえばN700系では橙色、白色、黄色、黄緑色、水色、紫色の6色を表示できるし、さらに多くの色を表示できる車両も多いです。
ただし、文字を表示する部分の色は黒色なので、あまり濃い色にすると見えなくなります。近年の通勤電車では、LEDよりもさらに精密で画像も表示できるLCD (Liquid Crystal Display: 液晶表示装置) を用いた旅客案内表示を見かける機会も多いです。新幹線もLCDを採用すれば、LEDよりもさらに多くの情報が表示できてよいように思えます。
しかし、LCD の場合は画面を相当大きくしないと遠くから見づらいです。新幹線の客室では、LED表示装置から一番遠い座席までの距離は約20mもあります。LCDにすると画面サイズが巨大になりすぎて設置できないのです。とはいえ、一部の航空機のように各座席に LCD を備え付けるという方法も考えられます。
問題はき電区分所を通過する際の停電時に多数のLCD をバッテリーでバックアップできるかです。中央装置や端末装置はこれまでどおりバッテリーのバックアップを受け、各座席のLCDは座席のコンセントと同じくコンデンサや補助回転機によって生み出された電力の供給を受けるという方式であれば実現するかもしれません。
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