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2002年、未知の新型肺炎が中国で広がりました。重症急性呼吸器症候群(SARS)と名付けられたこの病気で命を落とした患者はアジア、南北アメリカ大陸、ヨーロッパで700人以上にのぼります。
のちに、この新種の病原体は普通の風邪の症状を起こすウイルスの仲間だということがわかりました。それまでの風邪のウイルスは、ちょっとした喉の痛みを引き起こす程度のごく弱いものでした。
エボラ出血熱が最初に知られるようになったのは1976年のことです。この時は中央アフリカのごく一部の地域での流行だったため、ほとんど注目されませんでした。ところが2014年に、突如として、爆発的な流行が始まりました。
過去にエボラ患者が出ていなかった西アフリカで最初の患者が確認されると、ヨーロッパや米国など他の地域にも感染が広がっていきました。公衆衛生にとって幸運だったのは、指導教官から進路に関する助言を受けたピーター・ピオットがそのアドバイスを蹴って感染症研究の道を選び、世界最先端を行く臨床微生物学者となっていたことでした。
ピオットはエボラウイルスの同定に初めて成功し、死に至る別の新たな感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の謎の解明でも活躍しています。人類にとって不幸だったのは、彼が感染症研究に携わるようになってからの40年以上の間に、感染症は研究の種に事欠かない分野であることが明らかになったことです。
2016年までにHIV感染とエイズの世界的流行により少なくとも3500万人が死亡し、さらに数千万人がウイルスのキャリアであることがわかっています。しかも患者の大多数は命を救うために必要な薬を手に入れられずにいます。
これに匹敵する規模の伝染病を探すなら、14世紀のペストにまでさかのぼらなければならない。当時800万人だったヨーロッパの全人口の60%が死亡し、全世界では7500万人から2億人の死者が出たと推定されています。
14世紀には微生物の存在はまったく知られておらず、人々の生活の中心にあったのは宗教でした。そのため、ハンセン病は神の罰とされ、ペストも同じようなとらえられ方をしていたようです。
現代に生きる我々は古代や中世の先人よりも知識があり、きちんとした教育を受けてきたと思い込みがちですが、果たしてそうだろうか。 HIV感染者やエイズ患者たちは今も社会から疎外され、中には、ふしだらな生活をしていたから神罰がくだったのだとそしる人たちがいます。
ハンセン病患者に対する差別も一部の地域ではいまだに根強いものがあります。地図それぞれの背後には、人類が味わってきた恐怖と苦しみがあります。しかし同時に、人類がここまでも手ごわい、恐るべき敵を撃退する力を手に入れるための知識を求めて、たゆまぬ努力を続けたことも見て取れることでしょう。
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