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1492年、クリストファー・コロンブスが新世界に足を踏み入れた時に、新大陸にいくつもの恐ろしい病気が持ち込まれたと考えられていて、中でも特に危険なものの一つが麻疹(はしか)でした。麻疹が猛威を振るったのは、新大陸の先住民はそれまで麻疹ウイルスに出合ったことがなく、まったく免疫を持たなかったためだというのが通説です。
だが、これを否定する歴史学者もいます。コロンブスが大きな変化をもたらしたのは確かですが、当時の探検家や入植者、交易商人たちが世界中のあちこちで現地にはなかった病気を持ち込むことは珍しくなかったのです。
さらに、 彼らは他の地域に病原菌を持ち込むだけでなく、旅先から故国に未知の病気を持ち帰ることもありました。16世紀にスペイン人がカリブ海地域、メキシコ、中米に麻疹と天然痘を持ち込んだのです。
この2つの病気は中米とペルーで大流行し、中南米の征服を企んだコンキスタドール(中南米の征服・植民地経営を行ったスペイン人)がごく少人数でアステカ帝国やインカ帝国を制圧できたのはこれらの伝染病が一因だったという説もあります。
麻疹はヒトとサルの仲間にしか感染しません。感染経路は、一般的に接触感染と空気感染とされています。麻疹ウイルス (MeV) は呼吸器から体内に入り込み、全身に広がります。感染力は強く、数千年の間に何百万人もの人間がこの病気で命を落としているのです。
新大陸の例からもわかるように、それまで麻疹がなかった土地に持ち込まれると非常に多くの感染者が出ます。すでに免疫を持つ人が多い場所であれば死亡率は5000人に1人程度でしかないのです。しかし、1歳未満の乳児や栄養状態が悪かったり免疫系に問題があったりする子供の場合、死亡リスクはきわめて高くなります。
20世紀に西アフリカで行われた研究では、人口過密も問題を深刻化させることを指摘しています。こう考えると貧困層で子供の死亡率が高い理由を説明できます。人口過密地域で暮らしているとウイルスとの接触機会が多く、体内に入るウイルスの絶対量が増えるため、病気が悪化しやすいのでしょう。
さらに、そのような人々は同時に結核などの慢性感染症のリスクにもさらされていることが多く、麻疹などの急性疾患に対する抵抗力が弱っている可能性も考えられます。麻疹ウイルスは、人間が集団生活を始め、家畜を飼うようになった紀元前から中東で定着したと考えられています。
犬ジステンパーや牛疫 (かつては牛の群れを全滅させるほどの猛威を振るったのですが、2011年に根絶された)を起こすウイルスご近縁にあるため、どこかの時点で種の壁を越えて動物から人間に感染した可能性があるというのです。
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