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インド出身のグーグルCEOのスンダー・ピチャイは、グーグルが有利な地位を確立する道具として企業買収を悪用したとの疑惑もあわせて否定しています。彼は、「初期段階ではお断りした買収もありました」と述べましたが、具体的には言及しませんでした。そして今後の買収について含みを残しつつ、こう付け加えています。
「買収の時点で見逃している投資分野というのはありますから」見逃しの理由について、「イノベーションにさらにプラス要素が見込める企業のみを買収したいと考えているから」、あるいは、ユーザーの利益になるかどうかを判断基準にしているからだと説明する。「長年、企業買収に際してはずっとこの方針です」
広告テクノロジー関連会社の役員だったダイナ・スリニヴァサンは、アメリカ国内でグーグルに対する裁判で反トラスト法違反の訴状原案作成に加わった一人です。グーグルの企業買収について彼女は、デジタル広告のあらゆる部門を独り占めし、ライバルを締め出す戦略の一環だと批判しています。
グーグルはこれまで、少なくとも他の大手プラットフォーマーが独占する市場では後塵を拝している側だという、やや眉唾ものの自社擁護論を展開してきました。ピチャイは言う。「私が重視するのは、市場のダイナミズムです。いまあるマーケットの多くは、過去にはなかったものばかり。クラウドやeコマース、スマートフォンの製造もそうです。チャレンジャーはむしろ私たちのほうです」
たしかにグーグルはこれらの巨大市場では後発参入組で、先発組のアップルやアマゾンをしのぐインパクトをいかに与えるかに腐心してきました。とはいえ、株式時価総額が1兆ドルを超え、ネット検索とデジタル広告を牛耳り、2021年度の売上高も2000億ドル以上と予測されている巨大企業がそのような主張を繰り出しても、額面どおり受け取る人はいないでしょう。
イェルプのロウは言う。「グーグルは所詮検索屋。検索以外の部門で利益を倍にしようとしたら、検索を乗っ取って独占し、不正に利益を上げることしか残されていない」ここでもピチャイは、デジタル情報の大きなマーケットにおよぼすグーグルの影響力を過小評価している。
「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」というグーグルの企業理念は、インターネットのスタートアップだった頃は大胆なミッションに聞こえたものです。しかし、いまやグーグルはとてつもない力と資金を有する巨大企業。不吉な響きのほうが勝ってはいないか。
それに対して、「私たちは、いまだに情報エコシステム全体のほんの一部でしかありません」とピチャイは反論します。「動画市場を見てください。いまやかなりの数のプレイヤーがひしめき、情報量もかつてないほど増大しているではないですか。グーグルが独占するようなことはありえません」
グーグルに対する反発は、アメリカ大統領選挙期間中、政治広告の扱いに関して共和党議員から不信の目で見られてきたことにも表れています。どちらの政党が政権を取っても、グーグルはつねに標的にされてきたことはピチャイ自身も認めるところです。
「人間である以上、生きるうえで情報は不可欠。そして人々には、情報に関してそれぞれに確固とした考え方もあるでしょう。人々の視線が情報の価値に集中するのは、ごく自然なことです」またピチャイは、ネット空間にニセ情報が瞬く間に拡散するのを防げなかった、という批判の矢面にグーグルが立たされつづけてきたことも認めているように見える。
もっと以前と比べれば格段に進歩している、と主張することも忘れてはいない。「問題はあるにしろ、結局、情報技術システムを構築しているのは人間、ということに尽きます。ページランキングを確立し、検索結果の精度を上げるのに、AIを活用するなどのこれまでの歩みで自分たちが成し遂げてきた成果を見れば、イノベーションは急激に進んでいると考えています。」
「しかし、誤った情報をもたらす領域は確実に存在しており、私たちはさらに精度を上げなければなりません。だから、両方のことが言えるのです。私たちは大いに前進したが、まだまだやるべきことはたくさんある、と」
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