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宇宙が今現在、膨張しており、かつ相対論が正しいとすれば、宇宙に始まりがあったと結論せざるをえないでしょう。それでも、宇宙に始まりなどはなく、永遠不変であるべきだ。この、科学的思考というよりは人間臭い願望を満たすため、今から見ると珍妙としか言いようがない宇宙論が提案されました。
しかもそれは、当時世界的な権威であったイギリスの宇宙物理学者フレッド・ホイルが提唱したものでした。 そもそも「ビッグバン」という言葉は、ホイルがライバル説であるビ ッグバン宇宙論を揶揄して名付けたものとされています。
この宇宙モデル、いわゆる定常宇宙論では、宇宙は無限の過去から無限の未来まで、常に膨張を続ける。いわば、時間軸方向に「宇宙の果て」などないのである。理系の高校生なら、指数関数というものを学んだことがあるでしょう。
このモデルでは宇宙の大きさが時間に対して指数関数になっています。つまり、一定の時間が経つと宇宙の大きさが2倍になり、また同じ時間が経つとやはり2倍になる、といういわゆる倍々ゲームのような宇宙膨張です。
このモデルでは宇宙膨張のペース、つまりハップルの法則から求められるハップルパラメータが常に一定であるという性質があります。膨張しているとはいえ、膨張の仕方は永遠不変にできるというわけです。
ただし相対論に基づいて宇宙を指数関数的に膨張させるためには、宇宙が普通の物質ではなく、とても奇妙な物質というかエネルギーで満たされていないといけない。これは実は、アインシュタインが導入した宇宙定数や、のちに出てくるインフレーションや暗黒エネルギーにも関連する話で、これ自体は決して不可能というわけではないのです。
ただし、誰でもすぐに気づく問題点があります。宇宙が膨張すれば、それだけ中に存在する物質の密度は薄まるはずです。物質の密度が時間とともに薄まるのでは、とても永遠不変な宇宙とは言えません。
そこでこのモデルでは、宇宙には、なにか物質を生み出す未知のメカニズムがあり、宇宙が膨張して物質密度が薄まるのをちょうど補うように新しい物質が供給され、その結果、宇宙は永遠不変の姿を保つとされる。考え方としては、アインシュタインが静止宇宙を実現するために宇宙定数を導入したこととやや通じるものがあるのかもしれません。
しかし、そのように都合良物質を新たに生み出す物理的なメカニズムは何一つ知られていません。この苦しい点が、やがてビッグバン宇宙論に敗れ去る一つの理由となったのです。宇宙の始まりは熱かったのか
定常宇宙論はさておき、素直に考えて、宇宙には通常の物質が満たされ、相対論が正しいとすれば、宇宙は過去のある時点で突然始まったという結論になります。だが、それだけではまだ、宇宙が超高音の火の玉のような爆発で始まったということにはならないのです。
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