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伊藤忠の岡藤正弘会長は、財閥系商社を「政商(政府の御用商売)」、伊藤忠を「行商」と呼びます。天秤棒を担いだ行商は、今ある商品を売るだけでなく、売った先で頼まれた商品を仕入れ、次の行商で売っていきますが、岡藤氏はこれをマーケット・インの精神と称します。そして「選択と集中」を否定します。
「マーケット・インを実現しようとすると、総合商社が「選択と集中」をしてはダメだと思います。メーカーと違って技術革新をするわけじゃないし、一つの分野に集中して投資する必要もない。逆にいろんな業界で商機を見つけていくためには、繊維でも、食料でも、幅広く張っておかないと。当たるかどうかはわからないけど、一生懸命やっていく訳です。
(中略)・・・だから伊藤忠は、一つのビジネスの規模を追求するより、幅広く魅力あるビジネスをいくつも育てて、安定した利益を出していきます」(「伊藤忠はこうして財閥に勝った」「文藝春秋』 2021年9月号)
伊藤忠は製造業ではありません。では、製造業では選択と集中は必要なのか。私は三菱重工業が1980〜90年代前半に追求した「全製品黒字化」という企業経営の形を思い起こします。 飯田庸太郎、相川賢太郎の二人の社長が主導した取り組みです。
700種類以上の自社製品のすべての性能、寿命、価格、アフターサービスなどを様々な項目で分析し、競争相手の会社に勝る全製品一流化を実現する、その結果、全製品が黒字化するということです。
サムスン電子による三菱重工業に関する調査依頼はその秘訣を知りたいというものでしたが、製造業でも「選択と集中」をせず、高い業績を上げた企業はあるのです。ある経営者は「選択と集中」にはリスクがあると言います。
集中は経営者の決断と権限で行うことができるが、選択は難しい、選択にはセンスが必要だと言うのです。ほとんどの選択は間違える、なぜなら多く経営者、それを支える企画スタッフにはセンスがないからだと述べています。
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