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糖尿病が癌に罹患するのは、近年、様々なデータの裏付けがあります。2010年には米国糖尿病学会と米国癌学会が、2013年には日本糖尿病学会と日本癌学会が、それぞれ合同で、糖尿病とがんの関連に関する報告書を出しました。
日本糖尿病学会と日本癌学会の報告書では、日本人の場合、糖尿病は大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクを上げることが明らかになっていると指摘されています。このことは、多くの健康診断の結果を診てきた私自身の印象とも合致しています。
では、なぜ、糖尿病があるとガンになりやすいのか。それは、糖尿病とがんの発症プロセスには共通点が多いからです。まず、がん細胞は生体のコントロールを無視して無限に増殖し、浸潤や転移をして他の臓器を侵襲していくわけですが、そのためにはたくさんのエネルギーを要します。
がん細胞はそのエネルギーをどうやって得ているのかというと、ブドウ糖です。ブドウ糖をエネルギー源に、「解糖系」と呼ばれるサイクルを回してエネルギーを生み出しています。私たちの体には「解糖系」と、ミトコンドリア内の「電子伝達系」という2種類のエネルギー製造装置が備わっています。
がん細胞は、ミトコンドリアが壊れているか、使わないようにしているため、ブドウ糖を分解してATP(エネルギーの貯蓄のこと)をつくりだす解糖系のみに依存しています。ところが、解糖系は、ミトコンドリア内の電子伝達系に比べて生産効率が低い。電子伝達系のほうが、1倍も効率よくATPをつくり出すことができます。
そこで、がん細胞は体温を下げることで、血液とともに届けられる栄養分を自分が横取りできるように画策しているのです。体温が下がると、ミトコンドリア内で働く酵素が十分に働けなくなり、正常な細胞のミトコンドリアが機能不全に陥ります。
そうして使われなくなった栄養を、がん細胞が横取りしていくわけです。つまり、がん細胞にとっては、ブドウ糖がたくさんあって体が冷えている状態ほど暮らしやすいところはありません。
一方、糖尿病はと言うと、血液中にあふれたブドウ糖を細胞をスムーズに取り込めなくなる病気です。なおかつ、なぜそういう状態に陥るのかと言うと、ブドウ糖を日々摂りすぎているからです。つまり、糖尿病もがんも、キーワードはブドウ糖なのです。
生命体にとってブドウ糖は大切なエネルギー源であり、非常に重要な役割をしています。しかし、がん細胞は、ブドウ糖をより多く手に入れられるように進化したもので、糖尿病はブドウ糖を摂り過ぎた結果、ブドウ糖をうまく使えなくなったもの。どちらも、ブドウ糖をいかに制御するかがカギなのです。
もう一つ、ミトコンドリアの機能不全という共通点もあります。先ほど、がん細胞はミトコンドリア内のエネルギー製造装置である電子伝達系が使えなくなっている、と書きました。つまり、がんは、ミトコンドリアの機能不全そのものなのです。
一方、糖尿病では、膵臓の細胞が疲弊し、インスリンの分泌低下が起きますが、その直接的な原因は何かと言えば、B細胞のミトコンドリアの機能低下です。このことはすでに明らかになっています。では、インスリンは十分に分泌されているのにGTFが不足しているために血糖の取り込みがスムーズに行われないということに関してはどうでしょうか。
これはまだ仮説段階だといいますが、やはりミトコンドリアの機能低下がかかわっているといいます。各細胞のミトコンドリアがくたびれてくると、こうした不具合が起こりやすくなるのでしょう。最近では、がんや糖尿病に限らず、生活習慣病はミトコンドリアの機能不全症であると言われています。
細胞のなかでミトコンドリアがエネルギーをつくっているわけですから、そのミトコンドリアが障害を受け、エネルギーをつくれなくなると、その細胞の機能が落ちてしまいます。そうすると、さまざまな病気につながるのは無理もありません。
たとえば、アルツハイマー病は神経細胞のミトコンドリアの機能不全、不妊症は卵子の中のミトコンドリアの機能不全と考えられます。そして、ミトコンドリアの機能を維持するのに切っても切り離せないのが、ミネラルです。 ミトコンドリアで電子伝達系をまわすには、一つひとつの反応の触媒となる「酵素」の存在が欠かせません。
酵素の働きが低下すると、すなわち、ミトコンドリアの機能が低下します。逆に言えば、ミトコンドリアの機能を維持するには、酵素にしっかり働いてもらうことが欠かせないのです。たとえば、体内でアミノ酸(タンパク質)を分解すると、窒素が作られ、さらに余分な窒素からアンモニアがつくられます。
体内では当たり前のように行われている反応ですが、工業的にアンモニアをつくろうとすると、窒素と水素を500度といった高温かつ100気圧といった高圧で反応させなければ合成することはできません。それなのになぜ体内では37度程度の温度下でアンモニアをつくれるのかというと、触媒となる酵素があるからです。
それだけでも酵素の存在が重要なのです。そして、その大事な酵素が十分に働くには、酵素の働きを助けるミネラルが必須なのです。ですから、ミトコンドリアの機能不全は、酵素の機能不全でもあり、「ミネラル病」でもあります。背景には酵素とミネラルの不足が隠れているという点も、がんと糖尿病は共通しているのです。
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