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現代社会は「ストレス社会」とも呼ばれ、私たちは多くのストレスを抱えて生活しています。競争社会、管理社会、高齢化社会、情報化社会というように、ストレスは雨のように降ってきます。この状況に連動するように、心に起因する社会問題はますます深刻化しています。
最新の疫学データによれば、精神疾患、つまり「心の病」に一生涯のうちに一度でも罹患する確率は80%だそうです。私たちにとって一大事のこの病は、もはや他人事ではありません。精神疾患には多様な種類があり、その要因も症状もさまざまです。
たとえばストレスがなくなれば精神疾患が治るという単純なものではないことも、多くの方を苦しめています。そのような中、質の高い心豊かな生活を送るためにはどうすれば良いでしょうか。
それには、「心の病」を生み出す「脳」に対する正しい理解と、それに立脚した共感と思いやりのあるコミュニケーションを介して、人々が互いに調和しながら進むべき道を柔軟に模索していく必要があるのではないか。脳を研究している先生方は、そのように考えています。
人が人の脳を正しく 理解する「脳リテラシー」こそが、「心の病」の予防や治癒への鍵になるはずです。「心の病」を治すのが難しいのは、患者の脳の中で何が起こっているか、明らかではないことばかりだからです。最新科学で解明できないほど、私たちの脳はとても複雑な仕組みではたらいています。
たとえば、囲碁はAIが人類に勝つのは不可能に近いと考えられていましたが、2017年、囲碁界最強の天才棋士・柯潔氏に対し、ディープマインド社の囲碁AIである「アルファ碁(AlphaGo)」が3戦3勝の完勝をおさめました。
がんに関連する約2000万件の論文情報を学習したIBM社の「ワトソン」というAIが、治療が困難を極めていた急性白血病の患者の病気のタイプを10分で特定し、治療法の変更を提案して回復に導いたという事例も出てきました。
どちらのAIも、ニューラルネットワークというモデルを応用しています。ニューラルネットワークとは、人間の脳の素子である神経細胞やそのつなぎ目であるシナプス、そしてそれらから形成される神経回路網から着想を得たもので、脳機能の特性のいくつかをコンピュータ上で表現するためにつくられた数学モデルです。
つまり、AIはもともと脳の仕組みを模して造られたものです。それゆえ、もはや人間の脳のことはすべて分かってしまっているのではないか、と思っている方もいるかもしれません。しかし、そうではないのです。では、人の脳にできてAIには困難なことには、どのようなものがあるのでしょうか?
現在のAIは特化したこと、たとえば先ほどの囲碁の例などのように、特定のタスクにのみ人を凌駕する能力を発揮できます。一方で、人間はさまざまなタスクに柔軟に対応できる汎用性を持っており、さらには未知の状況を推論し、自らの行動を持続的に修正することができます。また人間は、原因と結果を理解し、それを簡潔に表現できます。
過去の膨大な天体データに基づき、どの惑星が、いつ、どこにあるかを計算することはAIにもできますが、このような原理原則を、宇宙の秩序を端的に表す理論(ケプラーの法則)として表現することは未だにできません。
この理論は、400年も前に天文学者ヨハネス・ケプラーにより導出された美しい理論です。また、ワトソンの例を見れば分かるように膨大な文献を読み込むことはAIの得意とするところですが、意味を理解し、そのエッセンスを凝縮したキャッチコピーにすることもAIには難しいでしょう。
今年の新聞をすべてAIに読み込ませ、サラリーマン川柳を作成したとしても、入選作品が魅せる悲哀とユーモアを交えた圧倒的なシャープな切れ味になるでしょうか。さらには、美術品や文学などの創作や、丁度いい塩梅で問題解決して事業を立ち上げることなども人類の圧勝と言えそうです。
また好奇心、向上心、時に不合理な判断やリスクをとり、想定外のセレンディピティーを生み出します。人間は「なぜ?」と疑問を持ち、考えます。考える分、思考力は深まり、新たな創造が次々と生まれていきます。AIに「『なぜ?』と疑問を持ちなさい」、「良い『問い』を設定しなさい」と命令しても難しいでしょう。
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