| |
ズックマンはカリフォルニア大学バークレー校の准教授です。同じくフランス人でカリフォルニア大学教授のエマニュエル・サエズと共同で取り組んだ格差に関する研究は、バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンに見られる米国の新しい左派の提案に影響を与えました。
サンダースもウォーレンも民主党の予備選挙で敗北しましたが、世論調査によると、二人は政治的な議論を世論に近いところに引き寄せました。ズックマンとサエズの共著『つくられた格差』はいまや、1980年代の「保守革命」によって形成された社会を理解するうえでの必読書です。
ピケティ、サエズ、ズックマンの仕事を共同作業と捉えた場合、『つくられた格差』は、新たな一歩を示しています。富の極端な集中がグローバルな格差に与える影響を定義した後で、今度は解決策を提案しているからです。
そしてその解決策とは、1980年代までの米国にあったような累進課税制度を、より強固で21世紀に適応したかたちで復活させることだといいます。ズックマンとサエズでは、ズックマンのほうが若く、彼が書籍をプロモーションし、アカデミックな枠を超えた公の議論やエックスで叩かれる役目を引き受けています。
税政策は、その他のすべてに影響を及ぼすことから民主的な社会ではもっとも重要であるとズックマンは言います。ところが累進課税制の劇的な崩壊は、不透明なプロセスでした。 近代史上はじめて、資産所得に対する税率が、労働所得に対する税率を下回り、このため米国の超富裕層は教師より少ない税金を払うような事態が起きています。
いまこそデータを精査すべきでしょう。なぜ、こうなってしまったのでしょうか。ズックマンの一つの要因は、法人税をめぐる競争です。各国が資金や工場を誘致したくて、法人税をこぞって下げていったことです。もう一つの要因は、租税回避や脱税の増加です。
これは富裕層や多国籍企業が租税回避、そしてときには脱税するのを助ける産業が発展したことに起因します。ここで強調したいのは、法人税を下げる競争も、租税回避も、自然法則ではなく、政治的決断がもたらしたものだということです。
EUでは、貿易や共通通貨の導入など、さまざまな分野で協調を図ってきました。税政策でも同様にできたはずです。何が改革を妨げているのでしょうか。ズックマンは、いいます。富裕層や資本に対する税率を下げるのは良いことだと、純粋に信じている人たちがいます。
そうすれば富裕層はより多く貯蓄し、より多くのビジネスを生み出し、それが残りの人びとにも利益をもたらすと彼らは信じているのです。これが「トリクルダウン理論」と呼ばれるものです。
すべての経済理論がそうであるように、この理論も一定の説得力はあります。けれどそれが正しいかどうかを評価するには、経験的データを精査する必要があります。ところがデータは、これらの理論を裏付けていません。
もう一つの要素は、私利私欲によって政治が一部コントロールされていることです。集中という現象は、富裕層が政治に与える影響力の増大とともに存在してきました。それが、こうした税政策が続いてきた一因でしょう。
|
|