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自動車メーカーは、常に車の性能を向上させ、安全で環境に優しく、そして値段も抑える努力をしなければならない。その流れについていけないメーカーは、遅かれ早かれ経営危機に陥ります。一方、フェイスブック他のSNSにとっての最大の財産は、あなたの注目です。だからそれをうまく引きつけるような製品を作らなくてはならないのです。
でないとそのうち潰れてしまうのは目に見えています。つまりあなたの注目は手堅い通貨のようなもので、デジタル軍拡競争は日々激しさを増しています。アプリやスマホ、ゲームやSNSの作り手はメカニズムにさらに磨きをかけ、数々の雑音を潜り抜けてあなたの頭の中に入ってこようとします。
私たちの注目を勝ち取るべく、脳のドーパミンのシステムをハッキングするのがますます上手になっているのです。スマホのアプリを見てみると色鮮やかで、アイコンはシンプルではっきりしています。まるでスロットマシーンのように見えるのは偶然ではありません。どの色が目を引くのかを行動学者がじっくりと研究した結果です。
「スナチャ」と呼ばれるスナップチャットはスロットマシーンを真似ていて、新しい画像や通知を見たければ、スクリーンを下に引っ張らなくてはいけません。おまけに更新されるのに1秒くらいかかります。まさにスロットマシーンのバーを引くときのようです。
「チェリーが3つ揃いますように!」 それでどうなるかというと、不明確な結果に対する脳の偏愛が作動するのです。ツイッターの時にも独自のテクニックがありました。スマホでアプリを立ち上げると、青い画面の中で白い鳥が何度か羽ばたいて、スクリーンを埋め尽くすほど大きくなる。それからツイートがすべて現れます。
これはログインに時間がかかるわけでも、接続状態が悪いせいでもありません。待たせることでスリルを増加させているのです。この遅れは、あなたの脳の報酬システムを最大限に煽るよう入念に計算されています。
SNSのプッシュ通知やチャットの着信音がどれも似たような音なのも偶然ではない。友達がチャットを送ってきたと思わせ、社会的な関わりを求める脳の欲求をハッキングしているのです。実際には、あなたに何かを買わせようとしているのかもしれないのに。
フェイスブック、スナップチャット、エックス各社の製品は、あなたが自由にメッセージや画像をシェアし、デジタル承認欲求を満たすプラットフォームそのものではない。「あなたの注目」こそが、彼らの製品なのです。
それを様々な広告主に転売できるよう、メッセージや画像、デジタル承認を使って注目を引く。無料で使えてラッキーと思っていたら、大間違いなのです。「私たちの注目」がそんなにお金になるなら、将来的には、さらに巧妙に注目を引きつけるようなスマホやSNSが生まれるのだろうか。
数年後の私たちは、7〜8時間画面を見つめ、社会的接触をすべてデジタルに置き換えているのだろうか。それとも電話やタブレット、パソコン、アプリを使いつつも、最新のテクノロジーを健全な形で扱えるようになっているのだろうか。
その答えは、私たちの中にあります。私たちが望めば、人の脳にうまく調和したスマホやSNSが登場するでしょう。心や身体の調子を悪くしないようにiPhoneを買ったりフェイスブックにログインしたりするのをやめれば、アップル社やフェイスブック社は別の製品を開発しようと必死になるはずです。だが、勝手にそうなると期待するのは甘いでしょう。
テクノロジーがどのようにデザインされているかを気にしても無駄だと主張する人々もいます。テクノロジーはテクノロジーなのだから、人間のほうが慣れるしかないのだと。だが、それは間違っていると思う。テクノロジーは、好き嫌いにかかわらず受け入れるしかない天気とは違うでしょう。
テクノロジーのほうが私たちに対応するべきであって、その逆ではないはずです。スマホやSNSは、できるだけ人間を依存させるよう巧妙に開発されています。そうではない形に開発されてもよかったわけだし、今からでも遅くはないでしょう。
もっと違った製品が欲しいと私たちが言えば、手に入るはずなのです。スマホに夢中になるあまり、周りで何が起きているのかさえ気づかないような人を街で見かけることがあります。「スマホを支配しているのはあの人なのか、それともスマホがあの人を支配しているのか?」そう考えるのは私だけでないでしょう。
シリコンバレーの巨人たちも、自社の製品への後悔の念を露わにしています。特にSNS関係でそれが顕著です。フェイスブックの元副社長のチャマス・パリハピティヤはあるインタビューで、「SNSが人々に与えた影響を悔いている」と発言しました。
「私たちが作り出したのは、短絡的なドーパミンを原動力にした、永遠に続くフィードバックのループだ。それが既存の社会機能を壊してしまった」 フェイスブックで初代CEOを務めたショーン・パーカーも、同社が人間の心の脆弱性を利用したと明言しています。彼もまた、こう言わずにはいられなかった。「子供の脳への影響は神のみぞ知る」
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