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認知症の患者数が増え続けています。厚生労働省の統計によると、1985年には59万人ほどだった日本国内の認知症患者数は, 2015年には500万人を超し、2025年には700万人にも達するといわれています。この問題は日本だけにとどまりません。
全世界における認知症の患者数は、2016年の時点で4700万人、2050年には1億人をはるかに超えると予測されています。これにともなう医療費の増大は避けることができず、その社会的および経済的な負担が、強く懸念されています。
たいていの認知症は、早期から適切な治療を行うことで、進行を遅らせることができます。 しかし、専門医の診断を受けるのを躊躇しているうちに発見が遅れたり、氾濫する情報におどらされ、効果のみられない対処法を行っているケースもあるようです。
認知症は脳の病気です。脳はとても複雑にできていますから、専門家の判断がなければ、正しい対応はできません。まずは認知症が、どういう病気なのかを知り、きちんと理解することが大切だといいます。
認知症とは、脳が広い範囲で障害され、全般的に知的能力が低下する病気の総称です。その原因により、「アルツハイマー型認知症」や「血管性認知症」などに分けられます。正常な脳の老化の場合、それほど著しく機能がそこなわれることはありません。
しかし、学習や記憶に携わるニューロン(神経細胞)の変性や、脳血管の損傷などによる病気で脳に異変が生じた場合、人によっては様々な知的能力が、日常生活に支障をきたすほど低下します。この状態を「認知症」といいます。
まず多くの場合、記銘力 (物事を覚えている能力)が障害され、思考や判断力が停滞し、理解力が低下します。さらに時間や場所などを正しく認識できなくなります。障害は、感情面や意欲面にもあらわれます。
例えば、すぐ不機嫌になったり、怒りやすくなったり、その逆に、いつも上機嫌で屈託がなく、多幸的で心地よい気分の状態が続くことがあります。さらに、何をするにも億劫がる, 趣味など好きな事に興味を示さなくなるといった自発性の低下も、比較的初期からみられます。
認知症の症状には、脳のニューロンが壊れることで引きおこされる「中核症状」と, 中核症状に関連しておきる「行動・心理症状 (周辺症状)」があります。中核症状は、もの忘れからはじまります(記憶障害)。 そして、考えがまとまらなくなり(判断力低下)、買い物でお釣りの計算に手間取ったりします(計算力障害)。
その後、料理や着替えといった段取りが必要な行為ができなくなる、電話やテレビなど、知っているはずのものを認識できなくなる(失認, 失行)といった症状があらわれ、さらには時や場所、人の名前がわからなくなるという具合に悪化していきます (見当識障害)。
一方で行動・心理症状は、徘徊(あてもなく、うろうろと歩き回ること)や不眠、攻撃行動 (暴力、暴言), 抑うつ、不安,興奮、被害妄想、焦燥感などがあげられます。行動・心理症状がおきると, 患者と介護者との意思疎通がむずかしくなり,それがまた,患者の攻撃行動や抑うつ状態を招く、といった悪循環につながります。
中核症状の根本的な治療法はいまだありませんが、行動・心理症状に対して適切な介護対応や薬物療法を行うことで、認知症を軽減することが可能です。まずは認知症が、どういう病気なのかを知り、きちんと理解することが大切だというのです。
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