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私の先輩で、松尾芭蕉の『おくのほそ道』を実際に歩いているという人が何人もいます。日によっては、50キロ以上も歩いたという人がいて、それを聞いて驚いたのですが、話を聞くと国道や県道のアスファルトの上を歩いていたことを知りました。
昔の街道がそのまま国道や県道になったところもあるのでしょうが、バイパスの裏道が昔の街道であったりするのです。それを知っていて歩いているのと、知らないで歩いているのとでは、天地ほどの差があるので、『おくのほそ道』をたどろうとすると、先ず江戸時代の街道図を広げ、今のロードマップと照らし合わせることから始めることになるのです。
しかし自信をもって松尾芭蕉の道を確定できることは非常に難しい。ルートマップには、そこに至る道が何本も別れていたり、昔あったはずの道が消えていたりするのです。街道図には方向が記されていないし、距離も結構適当です。
道そのものが無かったり、少なかったり、人家もなくなっていて見通しがよかったりして、距離はこの程度のものになってしまいます。だから、昔の街道図と今の地図を見比べても、悩んでしまう事が多いのです。街道は生き物のようです。
新しい道が開かれると、古い道は獣道のように一年後には埋もれてしまいます。新道もやがて迂回路などが改修されて姿を変えていきます。だからあれこれと考えを巡らせた後でさえ、はたして松尾芭蕉が通ったのはこの道でいいのだろうかと心配になってしまうことが多いのです。
特に元禄期までは全国で大規模な新田開発が行われていて、河川の流路を完全に変えてしまったり、排水用の川を新しく掘ったりした地方が多く、現在の地図からは想像ができないほど変わっていたりするのです。「おくのほそ道」に近づくことはそう簡単ではないのです。
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