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IT企業トップは子供にスマホを与えないといいます。自分たちが開発した製品に複雑な感情を抱いているのです。その最たるものが、アップル社の創業者スティーブ・ジョブズのエピソードです。ジョブズは、2010年初頭にサンフランシスコで開かれた製品発表会でiPadを初めて紹介し、聴衆を魅了しました。
「インターネットへのアクセスという特別な可能性をもたらす、驚くべき、比類なき存在」と、iPadに最大級の賛辞を浴びせました。ただし、自分の子供の使用には慎重になっていることまでは言わなかった。あまりに依存性が高いことには気づいていたのに。ニューヨーク・タイムズ紙の記者が、あるインタビューでジョブズにこう尋ねています。
「自宅の壁は、スクリーンやiPadで埋め尽くされているのでしょう? ディナーに訪れたゲストには、お菓子の代わりに、iPadを配るのですか?」それに対するジョブズの答えは「iPadはそばに置くことすらしない」、そしてスクリーンタイムを厳しく制限していると話した。仰天した記者は、ジョブズをローテクな親だと決めつけました。
テクノロジーが私たちにどんな影響を与えるのか、スティーブ・ジョブズほど的確に見抜いていた人は少ないのです。たった100年の間に、ジョブズはいくつもの製品を市場に投入し、私たちが映画や音楽、新聞記事を消費する方法を変貌させました。
コミュニケーションの手段については言うまでもありません。それなのに自分の子供の使用には慎重になっていたという事実は、研究結果や新聞のコラムよりも多くを語っています。スウェーデンでは2〜3歳の子供のうち、3人に1人が毎日タブレットを使っています。まだろくに喋ることもできない年齢の子供です。
一方で、スティーブ・ジョブズの10代の子供は、iPadを使ってよい時間を厳しく制限されていました。ジョブズは皆の先を行っていたのです。テクノロジーの開発だけでなく、それが私たちに与える影響においても。 絶対的な影響力を持つIT企業のトップたち。
その中でスティーブ・ジョブズが極端な例だったわけではありません。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホは持たせなかったと話しています。現在、スウェーデンの11歳児の98%が自分のスマホを持っています。
ビル・ゲイツの子供たちは、スマホを持たない2%に属していたわけです。それは確実に、ゲイツ家に金銭的余裕がなかったせいではありません。デジタルのメリーゴーラウンドにぐるぐる回されてしまうのは簡単です。
会社である文章を書いている最中だとします。チャットの着信音が聞こえ、スマホを手に取りたい衝動に駆られます。何か大事なことかもしれない。やはりスマホを手に取り、ついでにさっきフェイスブックに投稿した写真に新しい「いいね」がついていないかどうか素早くチェックします。
すると、あなたの住む地域で犯罪が増加しているという記事がシェアされています。その記事をクリックし、数行読んだところで、今度は商品のセールのリンクが目に入ります。それにざっと目を通そうとするのですが、親友がインスタグラムに新しい投稿をしたという通知に中断されます。さっきまで書いていた文章は、すでに遥か彼方です。
ここであなたの脳は、数十万年かけて進化した通りに機能しているだけです。チャットの着信のような不確かな結果には、ドーパミンというごほうびを差し出す。そのせいで、スマホを見たいという強い欲求が起こります。脳は新しい情報も探そうとするのです。
特に、犯罪事件の記事のように感情に訴えてくる、危険に関する情報を。アプリのお知らせは、社会とつながっていると実感させてくれます。脳は、あなたの話に他人がどう反応したか投稿につく「いいね」にも集中を注がせようとします。
もともとは生き残り戦略だったはずの脳のメカニズムのせいで、人間はデジタルのごほうびに次々と飛びつくのです。それが文章を書く邪魔になるからといって、脳は気にも留めない。脳は文章を書くためにではなく、祖先が生き延びられるように進化したのだから。
スマホが脳をハッキングするメカニズム、そしてなぜスマホを遠ざけておくのが難しいのか、これでわかったでしょうか。私たちを虜にするスマホの魔力に、人間はどんな影響を受けているのだろうか。これは未知の世界です。これから世界はどうなっていくのであろうか。
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