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2002年11月16日、中国南部の広東省で農業に従事する若い男性が、肺炎に似た症状で仏山第一人民医院に入院しました。その症状は一般的な肺炎とは異なるものでした。男性は回復して退院しましたが、どのようにして罹患したのかはわからないままでした。
その後の数週間で同じ症状を示す患者が次々と現れました。幸運にも殆どの患者は最初の男性と同じく無事に回復しましたが、何人かは死亡しました。3カ月後、広東省でこの病気の治療にあたっていた医師の1人が結婚式に出席するため香港に向かいました。
この医師は香港のメトロポールホテルにチェックインした頃から体調を崩し、数日後に死亡しました。医師のホテル滞在は24時間にも満たなかったのですが、近くの部屋に泊まっていた宿泊客にもすでに感染は広がっていました。
78歳のカナダ人女性も感染した1人でした。2日後に女性は自宅のあるカナダのトロントに戻りましたが、その時点で肺炎に似た症状を呈しており、3月5日に死亡しました。それからの数週間というもの、マスコミは騒然となります。
カナダではおよそ400人が同様の症状を訴え、トロントの住民2万5000人に隔離措置がとられ、44人の患者が死亡しました。中国系米国人のビジネスマン、ジョニー・チャンもメトロポールホテルに宿泊していた1人です。
チャンはベトナムに向かう飛行機の機内で具合が悪くなり、ハノイの病院に運ばれました。チャンは病院で死亡しましたが、医療スタッフや他の患者に感染が広がりました。その頃、 世界保健機関(WHO)の職員で感染症が専門のイタリア人医師カルロ・ウルバニはハノイを拠点に活動していました。
ウルバニのもとに病院から緊急要請の電話が入り、調査に向かいました。ウルバニはこの病気を今までにない未知の感染症だと結論付け、WHOに警戒態勢を敷くよう連絡しました。彼もまたこの病気に感染して死亡しました。
2003年の3月半ば、イギリスの新聞『サンデータイムズ』に「死の病原菌がヨーロッパにも」という見出しが躍りました。ニューヨークからシンガポールに向かう飛行機の乗客150人以上に「従来の治療が効かない新型肺炎」と接触した恐れがあるため、ドイツのフランクフルトで隔離されているという記事でした。
隔離は流行発生時の対策として古くから行われてきた手法で、賛否はあるものの、不明点が多くワクチンもない状況では、いかに21世紀とはいえこのやり方に頼るしかなかったのです。3月の第3週までに350人の感染が疑われ、そのうち10人が死亡し、感染はイタリア、アイルランド、米国、シンガポールなど13カ国に拡大しました。
2週間後には感染者を出した国は18カ国に増え、2400人以上の感染者と89人の死者が出ました。WHOは調査のため国際的な専門家チームを中国に派遣しました。米国は隔離措置が可能な感染症のリストにSARSを加えました。
後になって、WHOはカルロ・ウルバニ医師の行動により流行の初期段階で多数の新規患者を特定して隔離できたため、さらなる感染拡大を防止できたと発表しています。WHOは世界中の医師に向けてSARSへの注意を呼びかけました。
ここで重要な役割を果たしたのが、国際保健規則です。最初の導入は1969年で、コレラ、ペスト、黄熱、天然痘の監視管理が目的でした。WHOは2005年に、SARSの流行を受けて新しい感染症にも対応できるよう改訂しました。
ウルバニ医師が病に倒れる2週間前、中国の政府機関の衛生部は、広東で305人の「原因不明の急性呼吸器症候群」の患者が発生し、5人の死者が出たことを報告しました。3日後、中国はWHOに最初の患者を把握したのは4ヵ月前だったことを伝えました。
2月の終わりにWHO は重症急性呼吸器症候群、略してSARSと呼ばれるようになったこの病気を正式に認定しました。中国政府は流行の報告が遅れたことを謝罪し、「公衆衛生情報と早期警告体制に重点を置いた国内救急医療体制の速やかな設置」を発表しました。
並行して、中国南部と香港ではSARSに感染した動物の肉を食べることによる感染拡大を恐れて、市場での肉の取引が禁止されました。患者数が横ばいになりつつあった4月22日、米国疾病管理予防センター (CDC) が警告を出しました。
「SARSがどこに向かうのか、最終的にどこまで拡大するのか、予測がつかない」SARSの感染拡大は、公衆衛生を脅かすリスクになっただけでなく、経済にも打撃を加えた。4月末の時点でタイへの旅行者は70%、シンガポールへの旅行者は60%も減少しました。
イギリス外務省は香港、中国の一部地域、トロントへの渡航を控えるように勧告しました。2003年4月、SARSの正体がやっと見えてきました。香港の研究者たちがSARSの病原体はコロナウイルスの新型である可能性が高いという論文を発表したのです。
「コロナウイルス」という名前はラテン語で「王冠」や「光環」を意味する「コロナ」に由来し、ウイルスの表面に王冠のような突起があることからこう呼ばれています。SARSを引き起こす特殊なコロナウイルスは過去に人間からも動物からも見つかった事がありませんでした。
コロナウイルス自体はありふれたウイルスで、通常は重症化することはなく、普通の風邪程度ですむのです。しかし、SARSのような特殊なコロナウイルスは命を脅かす存在になりました。SARSは主に感染者との濃厚な接触 (キス、ハグ、直接接触、食器やコップの共有、1メートル以内の接近)により感染すると考えられています。
SARSやMERSのワクチン開発は昔から続けられていましたが、いまだにワクチンは出来ておりません。だが、今回の新型コロナウイルスではワクチンを多くの方が接種して死亡しました。結局、ワクチン接種した人の方が感染しやすくなっていますし、重症化もワクチン接種者が大半なのです。
おそらく日本人で繰り返しワクチンを打っている人は5割とか6割とか、世界一ワクチンを接種した日本人は、これからどのような症状が出るのか多くの科学者が危惧しているところです。mRNAワクチンというのも人類向けには初めてです。SARSが流行して、それ以来ずっと、コロナウイルスの研究もしてきたわけです。それでも危険を伴う品物だったのです。
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