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今から半世紀ほど前までは宇宙開発をめぐってソ連と激しく凌ぎを削っていたこともあり、 NASAには多額の予算が割り当てられていました。しかし、アポロ計画が終わり、次代を担ったスペースシャトルも高額な費用が足枷となり始めると、宇宙開発の意義に関して疑問を抱く世論も増加していきました。
結果的に、NASA関連の予算は削減傾向にあります。事実、2011年にスペースシャトル「アトランティス」を打ち上げて以来、2020年までの間にアメリカは自国のロケットやスペースシャトルなどで飛行士を宇宙へ送り込んでいません。
国際宇宙ステーションへの移動はNASAで訓練を受けた日本人宇宙飛行士を含めロシアのソユーズロケットに依存していました。しかしながら、「NASAがやらないなら民間で」と考える実業家が現れるのがアメリカらしいところです。そして、ロケット開発のための各種研究や、そのミッションに使用される航空機も登場するというわけです。
もっとも、ひと口に宇宙事業と言っても一様ではありません。有名なのは電気自動車メーカーテスラ社の創業者でもあるイーロン・マスク氏が率いるスペースX社で、同社は大型のロケットを打ち上げています。これに対し、改造された元旅客機を使用して小型ロケットの打ち上げ事業を行う会社もあります。
比較的歴史が長いのが人工衛星の製造や打ち上げを行う1982年創業のオービタル・サイエンス社で、2014年にはオービタルATKに社名を変更しました。小規模のロケット開発、衛星の打ち上げという分野でNASAと契約を結んで、中でも「ペガサスロケット」と呼ばれるタイプは、従来のロケットと異なり空中発射ができるのが大きな特徴です。
空中発射式のロケットでは、発射台をはじめとする地上の大規模施設が不要なのでコスト削減が可能となっています。空中発射の母機となるのはロッキードL−1011トライスター。元はエア・カナダで運航されていた機体で、1992年にオービタル・サイエンス社が入手しました。
カリフォルニア州のモハビ・エア&スペースポートを拠点にしており、2022年現在も運航されています。これは世界で最後の飛行可能なL−1011として極めて貴重な機体でもあります。
オービタル・サイエンス社はロケット発射母機としてボーイング747やダグラスDC−10も検討しましたが、 導入コストや高高度における巡航速度、パフォーマンスなどを比較した結果、L−1011が適していると判断したといいます。
L−1011と言えば日本ではロッキード事件で悪いイメージがついてしまったものの、ANAの主力機として国内幹線や初期の定期国際線であるグアム線などで活躍し、性能的には非常に評価の高かった三発機です。S字ダクトを装備した第二エンジンの取り付け方のラインが美しく、 旅客機ファンの間でも人気がありました。
全長54mは近年の主力大型機であるボーイング777−200よりも約10m短いのですが、 胴体断面はほぼ同等で、エンジンが三発あるので存在感がありました。客室の床下にはアンダーギャレーがあり、客室との行き来に機内エレベーターを使用するといった構造もユニークです。
当時の客室乗務員の間では「一人でギャレー作業をしていると幽霊が出る」などと噂になったという逸話もあります。ANAではボーイング747の補完的位置付けであったのですが、747では収容力が大きすぎると判断してL−1011を主力機材として導入した航空会社も多いです。
1990年代にはデルタ航空、トランスワールド航空、ハワイアン航空、エア・カナダ、キャセイパシフィック航空、エアランカ、ブリティッシュエアウェイズなど世界中で使用されました。しかしながら性能的な評価が高かった割にビジネス的に成功したとは言えず、 製造機数は250機にとどまりました。
オービタル・サイエンス社のL−1011は登録記号がN140SCで、第二エンジンに「スターゲイザー (天文学者)」と気の利いたシップネームが記されています。 胴体下部に搭載している巡航ミサイルのような形状のものが小型ロケットです。
以前はNASAが運航するNB−52 (B−52戦略爆撃機を改造したもの)から発射されていたが、 打ち上げ事業が民間に委託されるようになったことで 「スターゲイザー」 が使用されるようになりました。 旅客機搭載型のロケットは、これが世界初の例だという。
ロケットの空中発射は、地上設備が不要になるだけでなく、天候に左右されにくいという大きなメリットもあります。例えばスペースシャトルは悪天候や雲が多い場合は打ち上げられないのが弱点となっているのに対し、「スターゲイザー」は雲のほとんどない高度39,000フィートまで上昇し、 良好な条件の元でいつでも発射ができるというわけです。
スターゲイザーを使用したロケット打ち上げは1994年から行われているモハビ・エア&スペースポートが、隣接したエドワーズ空軍基地やヴァンデンバーグ空軍基地のある空域から発射されています。
ロケットの重さは300kg程度なので、 L−1011からの発射はそれほど困難なものではないのですが、これまで行われた40回以上のミッションで打ち上げ失敗は3度記録しています。
それでもNASAから受託したミッションをこなすなど実績を積み重ねており、「スターゲイザー」も活躍を続けています。ミッションがない時にはモハビ・エア&スペースボートの管制塔近くの駐機場にいることが多く、タイミングが合えば一般人でも目にすることができるといいます。
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