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物理学の基盤が大幅に修正されるのは、まったく新しいアイデアが出現したときというのが定番だといいますが、宇宙定数というアイデアは少しも新しくなかったのです。そもそもはアインシュタイン考え出したものは、物理学者が認めるのは違っていたといいます。
アインシュタインは優れたアイデアをたくさんもっていて、宇宙の進化を支配する、彼の重力方程式にぴったりと収まりました。だがそれは、まったくの誤解に基づいており、そもそも書き加えられるべきではなかったというのです。
アインシュタインに悪気はありませんでした。宇宙定数を加えたのは、宇宙が悲劇的な収縮を起こさないようにするためでした。もう少し正確にいえば、「とっくに収縮していなければならなかった」ということから逃れるためだといいます。
重力に関するすべてについての専門家だった彼には、当時入手できたあらゆるデータが、重力はとうの昔に宇宙を破壊していたはずだと示していることがわかったのです。それは1917年、ビッグバン理論が広く受け入れられるより半世紀も前のことで、「宇宙は定常的で変化しない」という考え方がまだ一般的でした。
恒星は生まれては死に、物質は少しずつ組み合わせを変えるだろうが、宇宙はつねに宇宙だった。他の出来事がいろいろと起こる「背景」にすぎなかったのだ。そのような状況だったので、夜空に恒星が輝き、どう見ても静止しているのを目にしたとき、アインシュタインは宇宙が大問題を抱えていることに気づいたのでした。
これら恒星の一つひとつが、他のすべての恒星を重力で引き寄せており、すべての恒星がゆっくりと近づきつつあるに違いないと、彼は思いいたったのです。他の恒星たちが途方もなく遠くにあるとしても、気休めにもならないでしょう。
重力は無限遠まで働き、純粋な引力なのだから(当時は、銀河系以外の銀河の存在が知られていなかったことは注意しておかなければならない。そうでなければ、彼はこの議論を恒星ではなく銀河を対象に行っただろう。銀河でも問題は同じである)。
変化しない宇宙の中では、何かの引力を感じないようにしたくても、いくら離れても、まったく感じなくなることはありえない。そしてその引力によって、やがて引き寄せられてしまうだろう。アインシュタイン自身の計算は、きわめて重い物体が含まれる宇宙は、すべて収縮してしまっているはずだと示していたのです。
宇宙の存在そのものが矛盾していたのです。これはじつに具合が悪いのです。幸い、一般相対性理論には、宇宙救済のための微調整を加える余地があることに彼は気づきました。宇宙に存在する何物も、恒星の重力に抗うことはできないが、宇宙そのものにはきっとそれができるだろう、というわけです。
アインシュタインは、宇宙の中に存在するすべてのものがもつ重力に応じて、空間の形状がいかに変化するかを記述する素晴らしい方程式をすでに導出していました。重力のせいで宇宙が即座に収縮してしまわないようにするには、この方程式は不完全だと断じ、重力を及ぼし合う物体のあいだの空間を引き伸ばすような項を付け足して、重力が引き起こす収縮を完全に相殺すればいいだけでした。
追加されたその項は、宇宙の新しい要素を表したものではなく、空間そのものの性質を表していました。「空間のすべての小片が反発エネルギーをもっている」という性質です。広大な空間があり、物質が少ししかないとき(恒星間、あるいは銀河間の宇宙空間のように)、この反発エネルギーが重力に対抗することができるのでした。
うまくいった! 方程式は救われた。他の恒星や銀河が存在しても、全体が瞬時に収縮したりしない定常的な宇宙がうまく記述できたのでした。アインシュタインは、またもや見事にやり遂げたということです。
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