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「鉄は国家なり」1世紀、プロイセン (現ドイツ)の宰相だったビスマルクの演説を基に生まれたこの言葉が示す通り、鉄鋼は世界の近代化の根幹をなしてきました。日本でも鉄鋼業といえば、財界総理といわれる経団連会長を多数輩出してきた一大産業です。
しかし21世紀に入り、世界が気候変動対策へと動く中、20世紀の世界を支えてきた鉄は、カーボンニュートラルに立ちはだかる一大ハードルとなっています。まず、産業セクター別の温室効果ガス排出量において、製造業が占める割合は電力を超える31%に上っています。
なかでも、自動車を始め多くの産業に必要とされる鉄鋼は、建設業に必須のセメント、そして先ほどの農業と並び、排出量が巨大であるにもかかわらず、「一番脱炭素が難しい3つの産業」(ビル・ゲイツ)とされているのです。
もちろん日本でも、2018年度のエネルギー関連のCO2排出量10億6000万トンのうち、鉄鋼業の排出量は約1億5900万トンと産業界でダントツの1位になっています。鉄は昔から、鉄鉱石を原料に、「高炉」と呼ばれる設備に石炭を蒸し焼きにしたコークスを還元剤として投入することで製造されてきました。
しかし、コークスは、いわば炭素の塊であり、これが酸素と結びつくことで大量のCO2が発生します。1トン当たりの粗鋼が排出するCO2は1・5トン(2018年時点)とされ、世界鉄鋼協会によると、これは世界のCO2排出量の約8%に相当します。
現在世界では発電向けの石炭 (一般炭)からの撤退は進んでいるものの、実は製鉄に用いられる「原料炭」では、一部資源大手が撤退を進めているだけで、それほど大きな動きにはなっていないのです。これは鉄鋼業において、高炉を代替するテクノロジーがまだ確立していないからです。
「原料炭事業は、高炉法という製鉄法がいつまで比較優位にあるか、現在、年に18.6億トンある世界の粗鋼生産量がどう推移するかに大きく左右されます。現時点では、高炉法を完全に置き換えるテクノロジーは完成していません。」
「まだ、20年ほどは製鉄方法の主流は変わらないとみていますが、技術に焦点が当たり、知恵とお金が集まったときに、新しいイノベーションが起きるのかは注視しなければなりません」。三井物産の安永竜夫会長はNewsPicks の取材に対し、こう語っています。
とはいえ、世界がカーボンニュートラルを実現するためには、この高炉の脱炭素にも手をつけないといけないでしょう。実際、日本トップの日本製鉄も2050年のカーボンニュートラルを宣言しています。
橋本英二社長は「日本は、大型化や省エネ化で世界最高効率の製鉄プロセスを構築してきたが、残念ながら現状はCO2を出さざるを得ない。革新技術がどうしても必要で、ゼロからのスタートとなる」と話している(参照: ニュースイッチ2021年1月4日)。
可能性のある技術の一つは鉄くずなどを「電炉」を使ってリサイクルする方法で、こちらは排出量が高炉の4分の1に抑えられるため、まず、最初の道として注目されています。だが、本当にネットゼロを目指すとなると、それでも足りないということになります。
そこでカギを握るのが、水素です。石炭の代わりに、水素を還元剤として用いる「水素還元製鉄」と言われる方法です。実は水素には、天然ガスなど化石燃料から作られたグレー水素、その過程でCO2を回収するブルー水素、さらに再エネ100%で作られるグリーン水素があります。
グリーン水素を還元剤に使えば、理論上は排出ゼロの鉄が作れるとされているのです。しかし、グリーン水素自体の供給にメドがたっていないほか、加熱や通気など製鉄の技術面でも課題が山積しているのが現状なのです。
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