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「想像力は知識より大切である。知識には限界がある。想像は、世界を包み込む」アインシュタインの有名な言葉です。ビッグバン宇宙論の基本的な枠組みは、強固な理論的基盤と数多くの観測実験的検証によって確立され、すでに知識と言ってよいレベルのものです。
だが、それゆえに「限界」もあります。自然科学が実験による客観的な検証をその礎としている以上、必ずその知識や理解には限界があります。「宇宙の果て」を考えていくと、結局はこの「我々の知識の果て」に突き当たることになります。
それゆえ、我々が一番興味を持つところでしょう。時間や空間方向に広がる「宇宙の果て」、いわば時空の果てについて、現時点の自然科学の知識をもとに明確な回答をすることはできません。しかしアインシュタインの言うように、想像をすることはできます。
あくまで自然科学の立場であるから、根拠のない想像をすることはできないのですが、これまでの自然科学の知識に基づいて、それなりに根拠のある形で宇宙の果てについて想像することはできるでしょう。
想像であるがゆえに、それが正しいと現時点で断定することは不可能ですが、それが真実の世界を包み込んでいることを期待しつつ、可能なかぎり「宇宙の果て」について思いを巡らせてみたいとおもいます。
まずは、過去に向かう 「宇宙の果て」、つまり宇宙の始まりについてどこまでさかのぼれるかを考えてみます。宇宙が膨張するという時間進化は、アインシュタイン方程式によって記述されています。したがって、宇宙の始まりに迫るためにまず行うべきは、この方程式の解が過去にさかのぼっていくとどうなるかを調べることです。
一様等方宇宙モデルの膨張解を過去にさかのぼると、ある時刻で宇宙の大きさはゼロという解になっています。大きさがゼロということは、宇宙のすべての物質が一点に集中してしまうということだから、物質の密度は無限大になってしまいます。
アインシュタイン方程式は、時空のゆがみを表す「曲率」と、物質のエネルギー密度が等しいとするものです。一様等方宇宙モデルの場合は、時空の曲率は宇宙の膨張率(ハップルパラメータ)になります。
過去のある時点で物質の密度が無限大になるということは、宇宙膨張率も無限大になってしまうということです。「無限大=無限大」では数学的に意味をなさないです。つまり、宇宙誕生の時刻ではアインシュタイン方程式自体が無意味なものになってしまうのです。
これは、相対性理論の枠組みでは宇宙誕生の瞬間に迫ることはできないことを示しています。相対論という実験でよく裏打ちされた理論を用いてビッグバン宇宙を記述することができるのは、ある時刻にすでに「一様等方かつ高温・高密度の宇宙」が存在していたとして、それ以後の時間進化をアインシュタイン方程式で解く、ということだけなのです。
この最初に想定する状態を物理学では「初期条件」というそうです。つまりこれが「ビッグバンの初期条件」です。これは必ずしも宇宙がその時刻で突然そのように生まれた、という意味ではないのです。そのような初期条件がどのように準備されたかについてはなにも答えていないのです。
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