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2020年12月1日、トヨタの豊田章男社長が動いた。日本自動車工業会の会長としての会見で、日本のカーボンニュートラル宣言は歓迎しつつも、同時に進められる急なEVシフトに対しては釘を刺したのです。
「EVは生産段階の完成検査時に充放電をしなければいけません。現在、1台のEVの蓄電量は平均して家1軒の1週間分の電力に相当します。年間50万台を生産する工場でこの充放電を行うと、1日当たり5000軒分の電気を充放電することになるのです。」
「火力発電でCO2をたくさん出して電気を作り、毎日5000軒分が充放電される。政治家の皆さんは、ガソリン車の販売を禁止しようと言いますが、EV化はそのぐらいのことをしないと維持できないということを分かっておられるのか」
要するに、豊田社長が訴えたかったのは、自動車をすべてEVに置き換えたとしても、製造段階ですでにCO2を排出しているため、脱炭素に大きく貢献することは出来ないという点です。これは、特にEVの中核パーツである電池が、製造に使う鉱物の採掘過程で大量のCO2を排出し、廃棄時にもやはりCO2を発生させていることが理由なのです。
いずれも、現状のリチウムイオン電池の技術ではクリアするのが困難な問題となっています。欧州の規制が走行時のCO2排出に焦点を当てた「Tank to Wheel」で計算していると説明したが、豊田社長は、エネルギー源の段階から含めた 「Well to Wheel (燃料採掘から走行まで)」という評価方法を前提に反論したのです。
確かに、ハイブリッド車を始め、ガソリン車の燃費は年々向上しているため、条件によってはEVの方が多くのCO2を出してしまう場合も考えられます。2021年、米ウォール・ストリート・ジャーナルとトロント大学が共同で調査を実施しました。
実施した調査によると、EVであるテスラのモデル3の方が、ガソリン車であるトヨタのRAV4と比べて、製造段階で2倍近くのCO2を排出していることがわかりました。一方で、モデル3のほうが少なく、モデル3が3万3000キロ走行した時点でRAV4と並ぶ計算となったのです。
つまり、もし3万3000キロを走行する前に廃棄してしまうことがあれば、ガソリン車の方がエコということになります。「トヨタは1997年の時点でHVの量産に踏み切るなど、もともと非常に環境対応に関心が強い企業としてやってきました。ただし、現状ではEVはやりたくないというのが、多くの幹部の本音でしょう。彼らの視点では、現在の電池技術は脱炭素の解になっていないからです」と、トヨタに近い関係者の一人は指摘する。
実際、トヨタはいくつかの奥の手を用意しています。その一つが「全固体電池」です。現状各社が車載電池として用いているリチウムイオン電池は電流を発生させる電解質が液体ですが、全固体電池はその名の通り固体を用いるのが一番の違いです。
全固体電池はリチウムイオン電池に比べて劣化が遅く、電池の容量も大きくすることが可能で、車載向けでは航続距離1000キロも視野に入っているほか、丈夫で発火しにくく、高速充放電も可能とされています。
リチウムイオン電池が持つあらゆる弱点を克服できる、まさに「次世代の電池」です。トヨタは、全固体電池には巨費を投じて研究開発に取り組んでおり、2020年4月には、テスラとの関係から車載電池に強いパナソニックと合弁会社を設立し、この分野への注力をさらに鮮明にしています。
この合弁会社の社長に就任した好田博昭は「多くのメーカーは現在、リチウムイオン電池の量産に追われている状況ではないかと思います。だからこそ今、先に(全固体電池を開発してしまう。思い切り全固体電池の開発を加速しないと、我々の強みが生かせない」とその取り組みの意義を強調しています。
もう一つ、脱ガソリンに向けたトヨタの切り札が「水素」です。トヨタはまだEVシフトの波が訪れる前の2014年に、世界初の量産型FCV (水素燃料電池車) 「ミライ」を発売した実績があり、この分野でも先駆者になっているのです。
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