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ワクチンによって予防できる病気はVPD(Vaccine Preventable Diseases) と呼ばれています。これらのワクチンを打つことで、ひとたび感染すれば命を落としたり重篤な後遺症が生じたりするような病気を、高い確率で予防できます。B型肝炎ウイルスとヒトパピローマウイルスは、ともに人にがんを引き起こすウイルスです。
よって、そのワクチンはがんを予防できるという特別な性質を持っています。B型肝炎ウイルスは、B型肝炎から肝臓癌を引き起こし、劇症肝炎など重篤な肝炎で命を奪うこともあります。ヒトパピローマウイルスは、子宮頸がんを含む様々な癌を引き起こすウイルスです。これら以外の多くの癌は、その原因が単一ではない為、薬で予防することはできません。
どれほど食生活に気をつけ、どれだけ規則正しい生活を送っても、大腸がんや乳がん、前立腺がんや膵臓がんなどにかかるのを未然に防ぐことはできないのです。だが、感染症が原因のがんであれば、感染を防ぐことによってガンを予防できる点で、ワクチンが我々に与える影響は極めて大きいです。
B型肝炎ウイルスを発見したアメリカの医師バルーク・サミュエル・ブランバーグは1976年に、ヒトパピローマウイルスを発見したドイツのウイルス学者ハラルド・ツア・ハウゼンは2008年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。
意外なことに、ワクチンの誕生は、実は細菌学やウイルス学の勃興よりはるかに古いのです。細菌やウイルスの存在が明らかになる前に、ワクチンは実用化されていたのです。「ワクチン (vaccine)」の語源は、牛を意味するラテン語「vacca」です。
なぜ「牛」なのか? ワクチンの誕生は、牛と大きなかかわりがあるのです。18世紀、世界中で天然痘が大流行しました。全身に発疹が広がり、3人に1人が亡くなりました。天然痘は、ポックスウイルス科に属するウイルスが原因の感染症です。
天然痘は紀元前から知られた病気ですが、もちろんウイルスの存在は長らく知られておらず、予防法や治療法も全くなかったのですが、一つだけ古くから経験上知られていたことがありました。「もし天然痘から回復できたなら、その人は二度と天然痘にはかからない」という事実です。現在、「免疫」として知られる現象です。
こうした経験から、人痘接種と呼ばれる予防法が十世紀頃から行われました。人痘接種とは、天然痘患者の皮疹から膿を抜き取り、これを健常者の皮膚の傷から体内に入れ、抵抗力をつけさせるという手法です。一定の効果があったものの、接種した相手に感染させてしまうリスクがあるなど、不安定な方法でした。
一方で、イギリスの農村では、「牛痘という牛の病気にかかった人は天然痘にかからない」という古い言い伝えがありました。牛痘にかかっても皮膚に軽い腫れものができるだけで、重い症状を引き起こすことはないのです。しかし、この病気にかかると、なぜか天然痘への感染は免れるというのです。
イギリスの医師エドワード・ジェンナーはこの現象に注目しました。牛痘患者の膿を人に接種することで、天然痘を予防できるのではないかと考えたのです。ジェンナーは、23人に対してこの手法(種痘と呼ばれた)を用いて、1798年にその研究結果を発表しました。
この23人の中には、ジェンナー自身の11ヵ月の息子も含まれていました。当初その効果を信じる人は少なく、ジェンナーは笑い者にされました。しかし、種痘の効果は確かなものだったのです。種痘が体内でどのように作用するのかは知られていなかったのですが、事実上これが世界初のワクチンとなったのです。
天然痘ワクチンは世界中に急速に広まり、天然痘の発生は劇的に減りました。1849年、方洪庵によって大坂に除痘館が建てられ、日本でもワクチン接種が広く行われました。1858年には江戸に種痘所が建てられ、これが東京大学医学部の前身となったのです。それから一世紀余りのちの1980年、WHOは天然痘の撲滅宣言を行ったのです。
天然痘患者は世界に一人もいなくなりました。かつて人類を脅かした病気が、地球上から消え失せたのです。人類の歴史上、ワクチンほど多くの生命を救った薬はないでしょう。現代に生きる我々は、医学の進歩が生んだ奇跡の技術を享受しているのです。
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