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「『ナトリウム』は、エネルギー業界のゲームチェンジャーになるはずです」2021年6月2日、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは、自らが会長を務める原発ベンチャー「テラパワー (Terra Power)」のオンライン記者会見に臨み、こう力強く語りました。
「ナトリウム」とは、テラパワーが手掛ける新型原発の名前であり、この日初めて米中西部のワイオミング州での建設が決まりました。この発表は、ゲイツの盟友ウォーレン・バフェットの投資ファンド、米バークシャー・ハサウェイの傘下企業が原子炉建設を担うこともあって、ビリオネア(億万長者)2人による原発建設として、メディアにも大きく取り上げられました。
ゲイツは、気候変動をめぐるあらゆる分野のイノベーションに投資をしていますが、ことテラパワーに関しては、自らが会長になるほど入れ込んでいます。その背景には、原発がCO2を排出しないという意味では「クリーン」な電源であることと、本命のイノベーションである蓄電池の進化には、かなりの時間がかかるということです。
「再生可能エネルギーのコストは驚くほど下がっています。ですが、再エネには、発電場所が電力の消費地から非常に離れていることが多いという問題点があります。電気は、何よりも信頼性が非常に重要です。」
「中西部を寒冷前線が通過し、風力発電や太陽光発電がすべて停止したとしても、人々は家に熱を求めます。そのためには、原子力のような環境に優しく、いつでも利用できる電力源が必要になります。」
「そうでなければ、現在の100倍の電力を貯蔵する蓄電池という、あり得ないレベルの奇跡が必要になります」と、ゲイツは米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで語っています。
そして重要なのは、ゲイツは原発を推しているのですが、それはあくまで新型の原発であって、旧型のものではないということです。ゲイツは「現在の原子炉は非常に高価で、高圧であるため、安全システムは非常に複雑」と指摘しており、だからこそテラパワーで新世代の原発をゼロから開発しているのだというのです。
では、この新型原発「ナトリウム」とは一体どんなものなのか。まず、その発電能力は35万キロワット程度と、100万キロワット程度がメインの従来の原発と比べると小さいことが分かります。
そのかわりに原子炉に、溶融塩エネルギー貯蔵システムが装備されることになっており、これを活用すれば、出力を5時間半にわたって50万キロワットまで引き上げられるといいます。もう一つの特徴は燃料です。
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