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ガスに満ちた暗い宇宙から、銀河や恒星の光できらきらと輝く宇宙への移行をもたらした主な要因は、今日では「ダークマター」と呼ばれている、きわめて奇妙な物質です。あまりに奇妙なので、最も強力な衝突型粒子加速器の中でも再現することにはまだ成功していないといいます。
放射、水素ガス、そしてあちこちに点在する他の原初の元素からなる混合物の中に、この奇妙な「ダークマター」という物質が存在しているのです。「ダーク」という名前ではあるものの、実際に暗いわけではありません。むしろ、「見えない」のです。ダークマターはどうやら、光とはいかなるかたちにおいても相互作用しようとしないようなのです。
放射することも、吸収することも、反射することもない。我々にわかるかぎりでは、ダークマターの塊に向かって進む光は、その塊をただ通過してしまうだけです。だが、ダークマターがほんとうにすごいのは、それがほとんど重力相互作用しかしないことです。
普通の物質が自らの重力に引かれて塊として凝集しようとするとき、その物質は圧力をもつので、引かれることに抵抗して押し返す。しかしダークマターは、この力を感じることなく凝集することができるのです。光と相互作用しないことの副次的効果は、何物ともほとんど相互作用しなくなることです。
なぜなら、たいていの場合、物質の粒子同士の衝突は静電反発力に由来し、それが起こるには、光との相互作用が必要になるからです(光子は光の粒子ですが、同時に、電磁力を媒介する粒子でもあるため、何かが見えないのなら、その何かは電磁的な引力も斥力も経験しない)。電磁力も圧力も、ダークマターには働かない。
インフレーションが終わった時のゆらぎによってあちこちに生じた、高密度の物質の小さな塊は、放射、ダークマター、そして通常の物質の混合物を含んでいました。通常の物質には圧力があり、それが放射と混合状態にあったので、最初に重力によって凝集できたのは、圧力によって即座に反発して広がってしまうことがないダークマターだけでした。
やがて、宇宙がさらに膨張して、冷却していく物質から放射が分離して遠ざかると、ガスがこの重力の井戸の中に流入できるようになり、凝集して恒星や銀河を形成しはじめました。今日なお、最大の尺度における物質の構造銀河や銀河団が織りなす宇宙のウェブは、ダークマターの塊や筋の骨格によって支えられています。
宇宙の夜明けにおいて、これらの見えない塊や筋が最初に輝きはじめた恒星や銀河が光を放ちはじめて輝き、ウェブに沿って煌めいた。さながら、暗闇のなかの妖精の明かりのように。次に宇宙が大きな変貌を遂げたのは、非常に多くの恒星が発する光が宇宙を満たすようになったおかげで、宇宙の火の玉状態終了時には中性になっていた。
宇宙空間を漂うガスが、電離しはじめたときのことです。当時、恒星が発する光は非常に強く、水素原子をふたたび自由電子と陽子に分解してしまった。その結果、 光源である銀河の集合を包囲するように、電離した水素の巨大な泡がいくつも形成されました。
宇宙のいたるところで、これらの泡が成長しているというのが、「宇宙の再電離」時代の特徴である「再」というのは、ガスは最初にビッグバンのあいだに電離し、この時ふたたび恒星によって電離されているからです。この変貌は、10億年ごろに完了しましたが、今日では、観測天文学の最先端領域の一つとなっていました。
それがいつ、いかにして起こったかが、ようやく理解されはじめたばかりです。それから130億年近くが経ちましたが、そのあいだ、ものごとはほぼ変わらぬ推移をたどり、銀河たちが形成されては結びつき、超巨大ブラックホールがあちこちの銀河の中心で質量を増し、そして新しい恒星たちが生まれ、その生涯をまっとうしているのです。
そのような経緯があって、現在の宇宙があります。今日我々が見ている宇宙は、銀河が連なってできた、暗闇に輝く広大な美しいウェブです。我々自身の青と白の惑星は、中くらいの大きさをした黄色い恒星の周りを公転しており、その恒星は、あらゆる意味で、きわめて平均に近いのです。
はっきりした証拠はこれから見つけなければならないのですが、この平凡な銀河には生命体があふれているのかもしれません。遠い昔に爆発した超新星の破片が、数千億個の恒星の周囲をめぐる一つひとつの惑星の上に、生命現象の基本的な原材料を生み出している。
現在の推測によれば、惑星系の約一割で、表面に液体状の水を維持するのに適した大きさをもつと同時に、恒星からの距離も適正な惑星すなわち地球のような惑星が存在しているという。
観測可能な宇宙の全域に見えているその他の2兆個の銀河には、数え切れないほどの別種の生命体が存在し、彼ら自身の文明や芸術、文化、そして科学的取り組みをもっており、その誰もが彼ら自身の視点から宇宙の物語を語り、彼ら自身の原初の過去を徐々に発見しているのかもしれません。
それらの惑星一つひとつの上で、我々と似ていたり似ていなかったりする生命体が宇宙マイクロ波背景放射をかすかなノイズとして検出しているかもしれません。そしてそこから、ビッグバンの存在と、我々が共有する宇宙は永遠の過去から常に存在していたのではなく、最初の瞬間、最初の粒子、最初の恒星を経験したのだという驚くべき知識を導き出しているかもしれません。
これらの他の生命体たちも、我々と同じことに気づきつつあるのかもしれません。宇宙は定常的ではなく、明確な始まりがあり、また、必然的に、終わりもあるのだと。
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