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集中力も作業記憶も、私たちが複数の作業を同時にしようとすると悪影響を受けるようです。例えば、パソコンの電源を切り、スマホはサイレントモードにしてポケットにしまえば作業の邪魔にならないと思う事でしょう。
だが、そんなに単純な話ではありません。スマホには、人間の注意を引きつけるものすごい威力があるのです。その威力は、ポケットにしまうくらいでは抑えられないのです。大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出ました。
学生自身はスマホの存在に影響を受けているとは思ってもいないのに、結果が事実を物語っています。ポケットに入っているだけで集中力が阻害されるのです。同じ現象が他の複数の実験にも見られました。そのひとつに、800人にコンピューター上で集中力を要する問題をやらせるというものがありました。
結果、スマホを別室に置いてきた被験者は、サイレントモードにしたスマホをポケットに入れていた被験者よりも成績がよかったのです。実験報告書のタイトルが実験の結論を物語っています。
「脳は弱るスマートフォンの存在がわずかにでもあれば、認知能力の容量が減る」モニター上に隠された文字を素早くいくつも見つけ出す、そんな集中力を要する課題をさせる実験もありました。その実験を行った日本の研究者も、同じような結論を出しています。
被験者の半分は、自分のではないスマホをモニターの横に置き、触ってはいけないことになっていました。残りの半分は、デスクの上に小さなノートを置いた。その結果は、ノートを与えられた被験者の方が課題をよく解けていたのです。
そこにあるというだけでスマホが集中力を奪ったようです。リンクがあるだけで気が散るポケットの中のスマホが持つデジタルな魔力を、脳は無意識のレベルで感知し、「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使ってしまうようです。
その結果、本来の集中力を発揮できなくなるのです。よく考えてみると、それほどおかしなことではないでしょう。ドーパミンが、何が大事で何に集中すべきかを脳に語りかけるのだからです。日に何百回とドーパミンを放出させるスマホ、あなたはそれが気になって仕方がない。何かを無視するというのは、脳に働くことを強いる能動的な行為です。
きっとあなたも気がついているでしょう。友達とお話をするために、スマホを目の前のテーブルに置く。気が散らないように画面を下にするかもしれない。それでもスマホを手に取りたい衝動が湧き、絶対にさわらないと覚悟を決めなければいけない。
驚くことでもない。1日に何百回もドーパミンを少しずつ放出してくれる存在を無視するために、脳は知能の容量を割かなければいけないのです。スマホの魔力に抗うために脳が全力を尽くしていると、他の作業をするための容量が減るのです。
それほど集中力の要らない作業なら大きな問題にはならないでしょう。しかし本当に集中しなければならないときには問題が起きるのです。米国の研究で、被験者に集中力の要る難しいテストをさせました。
被験者の一部には、テストの最中に実験のリーダーからメールが届くか電話がかかってくるかしたが、それに返答したわけではないのです。それでも、メールや電話を受けた被験者のほうが多く間違えるという結果になったのです。実に3倍も多く間違えたのです。
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