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他の人が何をしているのか、互いにどんな関係にあるのか。これを知っておくと有利だったため、人間にはそういう情報を得たいという強い欲求があります。高カロリーな食べ物を食べると脳が満足感というごほうびを与えてくれ、エネルギーたっぷりのものを食べることで餓死するのを防いできました。
それと同じように、他人の情報を知ったり広めたりする噂話をすると、満足感を感じるように脳のメカニズムが進化してきたのです。私たちが生き延びるのを助けたのは、食べ物とゴシップでした。
噂話というのは誰かについての情報を得るだけでなく、反社会的な振舞いや誰かがちゃっかりタダ乗りをするのを抑止する効果もあるのです。誰だって「勘定書きがテーブルに来るときには、いつもトイレに逃げているやつ」だとは思われたくない。そう考えると、噂話好きな人は健全な集団を作ることに貢献しているとも考えられます。
おもしろいことに、私たちはとりわけ「悪い」噂が好きらしい。上司が泊まりがけの研修で酔っ払って恥をかいたという話は、上司が秀逸なプレゼンをしたという話よりも興味をそそります。実際に、悪い噂は絆を強めます。
2人の人間が第三者のことを話すとき、内容が悪いことであれば、双方に強い仲間意識が芽生えることが判明しています。つまり、上司のプレゼンがよかったという話より上司が恥をかいた話をする方が、あなたは同僚により親しみを感じるというわけです。
だがなぜ、脳は悪い噂を偏愛するのか? おそらくそれは、悪い情報が特に重要だったからです。 誰が信用でき、誰と距離を取った方がよいのかを把握することができます。同じ理由で、私たちは争い事に強い関心を持つ。敵がいる人にとって、他にもその敵を嫌っている人がいるというのは貴重な情報です。同盟を組めるかもしれないのだから。
人口の1〜2割が他の人間に殺されていた世界では、誰が誰に恨みを抱いているか、誰に気をつけた方がいいかといった情報は、食べ物がどこにあるかと同じくらい重要だったのです。争いは特に関心の的になるから、今でもテレビの選挙討論番組は100万人の視聴者を惹きつけています。
だが、各政治家が掲げる目標といった事務的な情報になると、多くの人がチャンネルを変えてしまいます。それでは、いい噂は脳から見ると無意味なのか? そういうわけではまったくない。いい噂話はインスピレーションによって私たちを向上させてくれます。上司のプレゼンの話を聞くことで、自分も優れたプレゼンをしたいというモチベーションが生まれるからです。恥をかいた話のほうが、もっとおもしろいとはいえ。
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